encounter ※Kitten Heart BLOGより移植

第1話 (2013/08/16 update)

 私は全く見覚えのない場所に立っていた。
 どこかの山間にある原っぱのようなところで、人はおろか動物すら見当たらない。草木はヒザくらいまで伸びていて、そこをかき分けて当てもなく歩いていた。まだ、日中で明るいので、今のうちに帰り道を見つけておかないと……。

 ようやく原っぱの反対側まで歩くと、山道を下った先に小さな集落みたいなものが見えてきた。人が住んでいる気配は十分ある。これで帰り道が分かるかもしれない。
 だが、道を下った途中のあともう少しで集落の入り口にたどり着けるところで、鎧をまとった男二人に呼び止められた。
「見覚えのない顔だな。どこから来たんだ?」
 それが分からないから苦労しているの!
「その……。迷子っていうのかな。よく分からなくって」
 すると二人は相談し始めた。
「やはり、確保しておいて王女様に報告するか?」
「いや、部外者が国内に進入したこと自体、知れたらオレらはどうなる?」
「いっそ、なかった事にするか……?」
 少なくとも私にとって、良い展開にはならなそうだ。スキを見て集落の方へ全速力で下っていった。
 ——が、しかし。あっけなく捕まってしまった。
「離してよ!」
「オレたちの身のため、大人しく犠牲になれ!」
 メチャクチャわがままだ!
「お前ら、女の子が嫌がっているんだ。離してやれよ」
 わかりやすくも登場した救世主。身長は百六十センチくらいだろう。声も高く、少年のような振る舞いだった。そして、なにより背中に大きな剣を携えていた。

 

 私はこの人と出会い、一緒に過ごせて楽しかった!

 

第2話 (2013/08/30 update)

「助けていただいて、ありがとうございます」
「軽く気絶させただけだ。また起き上がる」
 集落とは逆方向へ走り、森の奥へ身を潜めていた。
「しかし、なんでまたあんな状況に?」
「よく分からなくって。私……迷子なんです」
「迷子?」
「家の近くの森に入ったら、戻れなくなって。帰り道を探しているうちにここへ……」
「どうやって来たのか分からないのか?」
「一つだけ覚えているのが、落とし穴に落ちて、目が覚めたらもうここだった」
「帰り方も分からないのか……」
 軽くため息をつかれる。
「よそ者が歩いていたら、そりゃあ衛兵に呼び止められるな」
「衛兵? さっきの鎧を着ていた人?」
「そう、この国の。この辺の郊外を守っている。中心地はずっと向こう」
 指をさすが、遠すぎて見えない。
「とりあえず、悪い人間ではなさそうだ。こっちに来な」
「どこに行くの?」
「あの集落よりずっと先に街がある。日が暮れるまでにそこへ行く」
 細身の体つきなのに、腕だけは筋肉が付いていた。その腕に引かれて森の中へ進んでいった。

 日が沈む頃に、話していた街に着いた。
「先に注意点を話しておく。あの街は衛兵たちの居住区もある。だから、目立たずに歩け」
 そういって抱き寄せられた。すごくいい香りがした。
「あえて、人通りの多いメインストリートを歩く。あの街で宿を取ってある」
「この街の人じゃないの?」
「オレはもっと先の街で鍛冶屋をやっている。そういえば、名前を聞いてなかったな」
「私、リリー」
「じゃあ、行こうか。リリー」
 ガトーと名乗った、この人と一緒に街へ入っていった。

 

第3話 (2013/09/13 update)

 繁華街をうまくすり抜け、宿の中に無事たどり着けた。
「しかし、問題になってくるのは衛兵に見つかっている点だ」
 ガトーが大きな剣を壁に立てかけると、ベッドの上に腰を下ろした。
「遅かれ早かれ、王女には伝わるだろう。そうなってくると身動きも取りづらい」
「王女さんって、どんな人なの?」
 私はというと、アンティーク調のイスに、ガトーと向き合うように座っていた。
「王女に関しては、あまり関わりを持たない方がいい……」
 その話になるとトーンが一気に下がった。この話は、まずかったのかな……。
「とりあえず、今後のことは明日にするとして……。ちょっと出かけてくる」
「どこにいくの?」
「偵察がてら、着替えとか調達してくる。リリーはシャワーでも浴びたら?」
 肩まで伸ばした自分の髪を触ってみた。
「うん……。そうだね……」
 いろいろ動き回ったからなぁ……。確かに洗い流したい。

 一時間後、さっぱりした私の前に、ガトーが食料などを携えて戻ってきた。
「この服、どうしたの?」
「このあたりの町娘がよく着ている。少しはまわりとも溶け込むだろう」
 いくつか持ち込んできたが、その中の一つ。赤をベースに白を織り交ぜた、エプロンドレス調の服を手に取ってみた。
「ありがと」
「着てみたら?」
 今すぐ着てみたいのは私もそうなんだけど、一つ問題が。
「その……。ねぇ?」
 ちらっとガトーの方を見た。
「なんだ?」
「だからね……。私、着替えるんだけど……」
「それで?」
「出てって、くれない?」
「女同士なんだから、別にいいだろう」
「え? え! えええー!!」
 同性だから着替えを見てもいいという問題は、こっちに置いといて――。
「お、女の子だったの?」
「見れば分かるだろう」
「どう見たって、十四くらいの男の子でしょ!」
「十八なんだけどな……」
 苦笑いしながら、ベリーショートの髪を掻いてみせた。
「私よりも一個上……」
 どこまで見た目にギャップがあるんだ。

 ダブルベッドを二人でシェアして寝ることにした。ガトーのことを知らなかったら嫌がったかも知れない。
 よっぽど疲れていたのか、早々と彼……じゃなかった彼女は寝てしまった。
 その寝顔は、起きているときの凛々しさはなく、可愛らしい優しい顔だった。
 でも、なんで私のことを助けてくれて、面倒も見てくれるのだろう。
 ガトーは、よく分からないことだらけだ。

 

第4話 (2013/10/18 update)

 一日おいて、早朝街を出ることにした。
 軽い朝食を済ませ、手短に身仕度を終わらせた。
「また、歩いて行くの?」
「休憩を何度か挟んで、夕方には着く」
 ガトーに着いていくことにした。少ない希望だが、分かりそうな人間がいるんだって。
 朝霞に包まれた街を抜け出し、再び野山と荒野を交互に通り抜けていった。
 これといって会話がなかった。
 見た目、少年。中身、男気に溢れる。そんな十八才の乙女。
 年齢こそ一個違いとはいえ、もっと話題があってもいいような。
「ガトーって、家族っているの?」
「男ばっかりだよ。母さんはずっと昔にいなくなった。あと、おとう――」
 急にガトーが咳払いをしだして再開。
「親父と二人の兄貴がいる」
 台詞だけ聞いていると男なんだが、話す声は女の子としてはちょっと低めな感じ。決して、男みたいな野太い声ではない。
「リリーは?」
「私は、一人っ子」
 兄弟がいる人っていいなって思う。

 夕方と呼ぶにはまだ早い時間に着いた。
 今朝、いた街よりかは大きいところだった。ここは衛兵は立ち寄ることがあるだけで、常駐はしていない。だから、安心していいってガトーが言ってくれた。
 さすが地元、落ち着いている。ここまで来るのに何かと急かされ続けたが、街に入ってからはそれがなくなった。
「ここが我が家。兼仕事場」
 自宅は奥の方にあり、手前が鍛冶屋。そこで中年男性が働いていた。
「今、帰った」
「どうだった?」
「まあまあってところだな」
 どうやらこの人がガトーのお父さんらしい。しばらく、仕事の話が続いた。
「ところで、じじぃは?」
「もう寝たんじゃねえのか」
「まだ日も沈んでないぞ! 全く。寝てばかりいやがって」
「どうした?」
「紹介したい人がいてな」
 そう言うと、親指を私の方に向けた。
「ついに、ガトーも彼女を連れてきたか」
「オレは女だ!」
 そう思われたいなら、まず言葉遣いから直そうよ。
 だから、カップルとか思われるんだよ。
「リリーも、このクソ親父に言い返してやれよ」
 『正論』以外、なにも思いつかなかった。

 

第5話 (2013/11/29 update)

「それにしても、その子どうするんだ?」
 鍛冶の作業をしながら、親父さんがガトーに問いかける。
「じじぃに相談して決めようと思っていたが、明日にする」
 予定が狂い、やるせない気持ちを押し殺しながら奥へ進もうとした。
「泊めるんだろ?」
「ああ。迷子だってさ」
「だったら、左奥の部屋。あそこ、貸してやれ」
 それまで受け流すように答えていたガトーが、血相を変えて奥から戻ってきた。
「あの部屋だけは、ダメだって言っているだろう!」
「もういいだろう、いい加減」
「よくない!」
 すると、ガトーは私の右手首をやや強引に引っ張っていった。
「リリーは、オレの部屋に泊める」
 それはそれで、また問題があるような……。

 奥へ連れてこられると階段があり、急にもかかわらず早足で登らされた。
 二階まで登りきると、今度は右の部屋に連れてこさせられた。恐らくこの部屋の反対側が二人の言う『左奥の部屋』なんだろう。外見は、なんの変哲もない木製のドアだった。それは、ガトーの部屋と同じものだった。
「悪い。変なところを見せて」
「う、うん。いいよ、気にしていないし」
 本当は、いろいろ気になるが。そんなこと、言える雰囲気じゃない。
「そ、そうだ。その……『おじいさん』ってガトーのおじいさんか誰かなの?」
 しばらくガトーは首を傾げた。
「あ! じじぃのことか!」
 ちょっと待ってよ。『じじぃ』って言わないと通らないの?
「この町の町長。いろいろ知っているから、リリーの帰り方が分かると思って」
 ちゃんと私のことを考えてくれたんだ。
「ただ最近ボケ気味だから、しっかり答えてくれるかな?」
 悪い冗談はやめて!

 食事の準備は当番制らしく、この日は親父さんが作ってくれた。
 いつの間にか、二人のお兄さんも帰ってきて、計五人で食卓を囲んだ。このお兄さんたちはガタイがしっかりしていて、男臭い環境だった。ガトーもああなるのも納得できた。
 宣言通り、ガトーの部屋で一緒に寝ることになったが、なぜか寝付けなかった。場所は違うが昨晩と同じなのに。
 ガトーを起こさないように、部屋の外に出て下に降りてみた。
 作業場の方が明るかったので、恐る恐る入ってみると、親父さんがまだ作業をしていた。
「どうした? 眠れないのか」
「まあ、そんな感じです」
「ガトーのことは悪く思わないでくれ。昔はあれでも少しは女の子らしかった」
 最初からじゃないんだ。意外だな……。
「どうしてああなったか、気になるか?」
 知りたいような、どうでもいいような。
 すると、カギを私に手渡してきた。
「それが『左奥の部屋』のカギ。知りたいなら、見てくるがいい。もちろん、ガトーにばれないように」
 私は迷った。あまり人に干渉したくなかった。でも、ガトーがなぜ立ち入りを拒むのか。それが気になった。
 意を決して、左奥の部屋に入ってみた。
 中はガトーの部屋を鏡越しに見たように反転しているだけで、ほぼ同じ間取り。定期的に掃除された、至って普通の子供部屋だった。

 

第6話 (2013/12/31 update)

 まだ若干の眠気を抱えながら、ガトーがいつも寝ているベッドから起き上がった。当の本人はというと、すでに部屋にはいなかった。
 一階に下りて洗面台にて、顔を洗う。いっそ、昨晩知った事も洗い流せれば良かったのに。
 キッチンの方からいい匂いがしたので、近寄ってみるとガトーが朝食を作っていた。
「おはよ」
 ガトーはいつも通り接してくれたが、こっちはあの部屋を見たせいもあってなんとなく気まずい。
「みんな食べたからリリーも食べて。このあと、じじぃのところに行くから」
 町長さんのところね、大丈夫かな……。
 席にはすでにトーストが置かれており、ガトーはトーストの横へ目玉焼きをフライパンから移した。今まで市場で仕入れてきたなど、出来合いのものを食べていたので、ガトー手作りは初めてだった。
「おいしい?」
「うん。とっても」
 そう言い返すと、ガトーは笑ってくれた。でも、その笑顔の裏であんなことを考えていたなんて……。

「町長さんの家って、ここから遠いの?」
「歩いてすぐさ。ほら、あの赤い屋根の家」
 食後一息つけてから、歩いてきたが五分とかからずに着いた。
「じじぃ、元気にしてたか?」
「おお、ガトーじゃないか。どうしたんじゃ」
 ガトーが『じじぃ』呼ばわりするのも分かるような、見るからに弱り切った躯体。長く伸びた白いヒゲは町長というより仙人と呼んだ方がわかりやすいおじいさんだった。
「この子がどこから来たか分からない、迷子でさ」
「おお! ジャスミンではないか! 久しぶりじゃのう」
「リリー。知り合い?」
 首を大きく横に振り、完全否定を表現した。おまけに町長さんは、ボケていることも分かった。
「また、帰り道が分からなくなってしまったか。仕方がないのう……」
「もしかして、いつもこんな感じ?」
 私がガトーに聞くと、一度だけゆっくり首を縦に振った。
「どうするか……。他に分かるヤツ、いないし……」
「前にもワシが教えたじゃろ。城の地下に帰り道があると」
 こちらの心配をよそにあっさりと解答が出てきた。
「おじいさん、それホント?」
 町長は、ただニコニコしながらうなずいた。
「帰り方も分かったし、家に帰って準備するか」
「ありがとうね。おじいさん」
「それにしても。ジャスミンがこっちに来るなんて、また嫌なことでもあったのか?」
 まさに不意打ちを食らったように、心臓をえぐるような言葉だった。
「わ、私……。べ、別に、なにも……その、ないよ?」
「リリー。置いてくぞ」
「ごめん、待って」
 あのおじいさん、ボケたフリした仙人なのかな……。

「城となると、三日はかかる。それなりに準備をしないとな」
 ガトーの部屋に戻り、また長距離移動の旅支度をする。
「ガトー。私ね、その……一人で行くよ。これ以上迷惑をかけたくない」
「オレは平気だ。気にすんな」
 そう言うが平気なわけがない。そもそも彼女をそこへ行かせてはいけない。
 ガトーは部屋の片隅に置いてあった、あの大きな剣を持ち出した。
「私ね……。その……あの部屋に入った。……ごめんね」
 ガトーはわかりやすくも、持っていた大きな剣を右手から落とした。
「私も気持ちは分かる。でもその剣って、王女を倒すためだけにガトーが作ったんでしょ。だから私を助けた時に斬らなかったのも、そういうことなんでしょ」

 

第7話 (2014/02/14 update)

『夕食は、また適当に取りなさい』
 ダイニングテーブルの上にあった母親の置き手紙に、今日もため息が出る。いつもこれだ。
 冷蔵庫の中をあさり出すこの光景も、日常の出来事へとなっていった。昔はパンと残り物で凌いでいたが、ここ最近は作ることを覚えた。といっても大したものは作れない。自分の飢えさえ満たせばよいのだから。
 父親は仕事が忙しく、「疲れた」といって休みの日でも相手にしてくれない。
 両親が共働きで、兄弟がいない私はこの家で孤独を感じていた。
 小さい時に私が寂しくならないようにと、くまのヌイグルミを買ってもらったことがあるが、話しかけてもなにも答えてくれない。腹話術でなにか言わせたらそれこそ寂しい。
 それが十二才までの話だった。

 十三才の夏。日曜日の昼間だというのに相変わらず家には誰もいなく、窓を開けて外ののどかな山間の風景を眺めていた。
 私があまりにもぼーっとしていたので、訪問者に気づかなかった。その訪問者は開けっ放しの玄関から堂々と入り、私が食べ残したミートボールに狙いをつけていた。ダイニングテーブルへよじ登ろうとする物音でやっと気づいた。
「何しているのよ」
 見つかって逃げるのかと思ったが、その茶色の猫は私の方を見て甘ったれた声を出してきた。
「分かったよ。あげる」
 小さくカットして、与えてあげた。よほど空腹だったのか、体育会系を連想させるほど、あっという間にガッツリと食べてしまった。満足して出て行くことなく、私のそばに寄り添うように離れようとしなかった。
「もしかして、ひとりなの?」
勝手な想像に過ぎなかった。しかし、今この瞬間私と一緒にいてくれる存在。

「ねぇ、この猫。飼ってもいい?」
 どう考えても迷い猫を飼って良いと言うと思えず、ダメもとで母親に頼み込んだ。
「好きにすれば?」
意外にもすんなり通って、その時は嬉しかった。
「それよりあなた。お隣の奥さんがね……」
よくわかった。私に興味がないって。
「ミミだけだよ。この家で私といてくれるのは」
ミミはありきたりな猫の鳴き声で返事をする。

 それからずっと、ミミのことを弟のようにかわいがった。
 寝るときはいつも一緒で、甘えるように向こうから私の布団に入ってきた。いつもミミの温もりを心地よく感じていた。
 食事も私が作ってあげたものを、食べさせてあげていた。おいしそうに食べてくれて、作るのが楽しかった。

 三年の月日が流れたある日。
「ミミー! ご飯だよ」
 家じゅう叫んでみたが、反応がない。いつもだったら、臭いを嗅ぎつけてすぐ来るのに。ベッドの下や、山積みに置いておいた洗濯物の中。思い当たる所は探し回った。
 家の周りもひととおり見てみたがいなかった。
「おなかがすいたら、帰ってくるでしょ」
 その時は深刻に考えていなかった。だが、いくら待っても帰ってくることはなく、心配になってきた。
 ミミが帰ってきたのは、この三日後。あまりにも変わり果てた姿に絶句した。見つけた人によれば、車か何かにひかれたんじゃないか、と言うが信じたくなかった。これがミミだってことも。
「また一人になる……」
 これが嫌だったにも関わらず、部屋にこもるようになった。
 ミミをひいた人が誰だったとしても、恨む気はなかった。それより、いなくなったことがショックだった。

 両親が家からいなくなると、部屋から出て食べ物をあさる。外に出なくなったことを除けば、ミミが来る前と全く同じ生活になった。結局外に出ても同じことだし。
 キッチンで昼食を物色していると、一匹の猫が入り込んできた。その猫があまりにもミミに毛並みやらが似ていた。
「ミミなの?!」
 私の声に驚いて、テーブルのものを取り損ね、慌てて出て行ってしまった。すぐさま追いかけていった。
 近くの雑木林に逃げていくところまでは、追うことができたが見失ってしまった。必死に捜索をしたが、日が暮れる一方だった。
「やっぱり、思い違いだったのかな……」
 あきらめて帰ろうとあたりを見渡してみたら、全く見覚えのない場所に立っていた。

 そこで助けてくれた彼女と、いい友達になれると思っていた。気持ちをわかってあげたかった。だから、この話をした。しかし、ガトーは納得する様子はなかった。
「そうだよね……違いすぎるよね。拾った猫と、実の弟じゃあ……」

 

第8話 (2014/06/20 update)

「おねーちゃん!」
 ガトーが振り返ると、置いてきぼりになった弟が呼び止めていた。
「歩くのが速い!」
「フィス、あんたが遅いのよ」
 隣の街へ依頼の用件を済ませようと弟も連れたが、帰り道で駄々をこね始めた。
「ほら、おぶってあげようか?」
 ガトーがしゃがむと、素直に自分の背中へと身を任せてきた。こうやって甘やかすからいけないんだと思いつつも、どうも弟に厳しくできない自分がいた。
「ねーちゃん、あれ何?」
「キノコ? 近づいちゃダメだよ。死んじゃうよ」
 単なる笑いダケだって言う人もいるが、三日以内にあの世行きになるという噂もあり、どのみち近づかない方が得策だ。
「なんでそんなに急いで帰るの?」
「戦乱が酷いからよ。巻き込まれても知らないよ」
 数年前、国外から攻め込まれて以来、至る所で戦が起きていた。キノコも自生していたわけではなく、王女の命令により撒かれたものだった。最近はキノコ効果なのか、こちら側が抑え始め、収縮傾向にあるが依然として国内は警戒心が強い。

 

「帰ったよ」
 家の仕事場には、父と一番上の兄が仕事に精を出していた。
「お風呂でも沸かそうか? フィスも入れてあげたいし」
「おお。すまないな」
 ちなみに、二番目の兄は修行中で家には居ない。
 途中から楽していたとはいえ、日中を歩き回ったせいで汗臭いフィスをお風呂に入れようとしたが、大人しくしてくれない。
「ちゃんと、お湯に浸かりなさい!」
「ヤダ! おねーちゃん、いつもそうじゃん」
 そういって浴槽を飛び出していった。
「こら! ちゃんと体を拭け!」

 

 

 

「まあ、これだけじゃ普通の部屋だろ?」
「確かに……」
 カギを開けて『左奥の部屋』に入ると、あとから親父さんが入って来るなり話し始めた。
「うちは見ての通り、男ばっかりだ。四番目が生まれてすぐに女房を亡くしてな……」
 つまり、ガトーの弟フィスが生まれてすぐに母親が病死している。それからというもの、ガトーが弟の面倒を見るようになった。
「それも数年だけだった。フィスがひとり遊んでいたら、王女に目をつけられてな……。真相を知っている街の者もなかなかいない。だけど、聞いたところにはフィスが王女とは知らなくて悪さをしたとかしないとか。もちろん、街の者は止めたさ。その中にガトーもいた。しかし、結果は——」
「それでガトーって、そうなったんですか?」
「最初は目の前に居たにも関わらず、どうにもできなくて落ち込んでいるだけだと思っていた。鍛冶屋の仕事なんて興味もなかったのに急に手伝いだして、おかしいと家族が気づいた時には復讐心で満ちていた」
 親父さんは軽く息を吐き、私の目を見た。
「傷ついているのは家族みなそうだ。けど、復讐する気はない。できるだけ、ガトーと王女は引き合わせないでくれ!」

 

第9話 (2015/02/14 update)

「弟の部屋に入ったことを、咎めるつもりはない」
 ガトーは落とした剣を拾い、私を部屋から追い出そうとした。
「ガ……とぅ……」
 私は嫌がったがガトーの力が強く、部屋の外に閉め出されてしまった。
 仕方なく、下に降りることにした。行く当てはあったからだ。
「そうか……。言ってしまったか」
 ちょうど砂鉄を溶かしている真っ最中で物凄い熱気に包まれている中、親父さんに事情を話した。
「ごめんなさい。黙っておく約束だったのに……」
「いや。言うと思ってな、あの部屋のカギを渡した」
「どうしてですか?」
「ガトーがお前さんに、心を開いているからだよ。見ず知らずの人にあんな風に振る舞うなんて久しく見ていなかったからな」
「でも、私はガトーを傷つけた……」
「気にすることはない。ああでもしないとガトーは自分から変わろうとしない」
 そうは言ってもねぇ……。

 私は怖くてガトーに近寄れなくなった。また傷つけてしまうような気がして。
 家にも居づらく何となく街をぶらついていたが、いい解決策を思いつかないまま日が暮れてしまった。
 ガトーはともかく、親父さんに心配がかかるので戻ることにした。すると本日の食事当番のガトーがキッチンで忙しく動き回っていた。
「リリー。お帰り、遅かったな」
 怒っている様子もなく、いつも通りってところだった。私は恐る恐る席に着くと、目の前にビーフシチューを置いてくれた。そして、真向かいに座った。
「そういえば、その……。ミミってどんな猫だった?」
 突然の質問にビックリしたが、茶色の猫と答えた。
「もし、よかったら、夕食が終わったら外に行かないか? 話したいこともある」
 私はもちろんOKをし、夜の街に出た。大通りを避け、静かな川沿いを歩いた。
「あまり、触れられたくないことを知られて動揺していた。ごめんな」
「私も……ごめんなさい。ガトーのことが知りたくて」
「どうせ、あのクソ親父がしたことだ。……ったく、ろくな事をしない」
「親に心配して貰えて、ガトーはいいな」
「……ずっと、一人だっけ?」
「私、ガトーが羨ましかった。兄弟なんていなかったし、気遣ってくれる人が私にはいなかった……」
「リリー。必ず、無事に元の世界に送り届けるよ」
「……うん、わかった。でも、そしたら寂しくなるね」
「まあ、そう……だな」
 夜風が二人の間をすり抜けるが、寒さはなかった。
「しかし、それも王女さえどうにか出来ればの話だ」
「その……。復讐するの?」
 一瞬の躊躇はあったが、聞かなきゃいけないような気がした。
「復讐心がないと言ったら確かにウソになるな。でもな、王女に物申したいだけだ。武力は最終手段だ」
 こうやって外に出る際も、ガトーは剣を背負って出歩く。
「リリーと出会ったときの衛兵たち、覚えている? 部外者がどうこう言っていなかったか?」
「そういえば……。そんなことを言っていたような……」
「帰る手段が城となると、いろいろと話さないとダメだろうな」
 ガトーは夜空を見上げ、深呼吸をした。
「もうずっと前か……。国外からの侵略があってな。それは抑えられたが、それ以来というもの王女はおかしくなってな……。弟の為にもどうにかしたいだけだよ」
 今夜もガトーと同じ部屋に寝ることになった。ただ違っていたのは同じ布団の中だった。外では話しきれないことをずっと話し合っていた。
 夜も深くなり睡魔も訪れてきたので、まだ話し足りないが切り上げることになった。
「明日、朝食を食べたらここを出る」
 私は、返事をする代わりに、ガトーの手を優しく握った。

 

第10話

(2020年内に最終話までブログ先行公開)