「パスク、あの場所で待っている」 ※Kitten Heart BLOGより移植

第1話 (2014/03/17 update)

「てめえは、終わったんだよ!」
 倒れたところに剣先を向けられ、この台詞。逃げようがない。
「いきがって、攻め込んできたと思ったら、こないだと同じじゃないっすか? マジ、やばくないすか??」
 こんな筈じゃなかった。このムカつく野郎を倒せると思っていたのに……。
「パスクさん……。今度こそ『あの場所』に行くのはオレっす」
「……それはどうかな?」
「あぁん? ざけんな」
「先は、長いってことだよ!!」
 右足を蹴り上げ、奴の剣を払いのけて一旦退避した。

 俺には果たさなくてはならない、約束があるんだ!

第2話 (2014/04/17 update)

 あれは、十年前の秋のことだった。
 日中から天気がよく、夏に逆戻りしたかのように暑かった。日が暮れて、気温もだいぶ下がり一変して肌寒く感じた。半月の夜、星もきれいに輝いていた。広い草むらの中、北から吹く風を背に受けてじっと一人の男を待ち構えていた。
 そう、最大の宿敵。そして、親友 ——コリエンテ。
 お互い十九歳同士。腕はコリエンテのほうが上だった。でも、どうしても勝たなければならない。
「パスク、こうやってお前と剣を交えるなんて最高だよ」
「オレもだよ、コリエ」
「恨みっこなしで」
「もちろんだとも」

 この広い国は何十ものの地域に分かれており、その中で大小の街があったりする。それぞれごく普通の生活があるわけだ。大きな戦乱もなく、国内だったら自由に行き来できる、至って平和過ぎる日々が続いている。
 というのも、全国にちりばめられた、選ばれし二十人の騎士がいる。これに選ばれたら、そりゃあ名誉で子供たちからは憧れの的だ。
 しかし、公平性と健全性を守るため、毎年数名ずつ入れ替えている。その選出方法が、候補者同士で争い、成績上位に入ったものが入れる。
 志願者も多く、この候補者の中に入れること自体、奇跡みたいなところがある。
 この候補者の中に入るため、オレとコリエンテで争っている。そういえば、あともう一人いたな……。名前、なんて言ったかな?

 オレは、もともとは山奥の小さな村で生まれ育ったが、候補者に入るため里を降りて大きい街に出てきて暮らし始めた。
 住み慣れた村が非常に都合がよくって、ここでの生活に慣れるのに時間がかかった。
 でも、この街も実家の村のように思えてきた。
 だからこそ、最高の場所で最高の決戦にしたい。
「コリエっ! 勝負!」
 力は下でも、ここだったら負けないんだよ!
 金属同士が重なり叩き合う音。悪くない響きだ。ややコリエンテに押され気味になった。
 やっぱり、コリエンテは強い。
「どうした、コリエ。もっと来いよ!」
「安心しろ。すぐに終わらせてやるよ」
 ここからコリエンテの猛攻が続いた。必死に耐えたが、今日は妙に落ち着いていた。
 大技を出すところを見逃さず、間合いに入って不発に終わらせた。
「やるな……。でも、そう何回も止められるか」
「悪いな。今日は調子がいいんだ」
 こちらも攻めに出る。むやみやたらに振りかざすことなく、的確に腕を振った。

 互角の戦いにやがて、月光に照らされた一方の剣が夜空を舞った。

 二人の間では、歴史上最高と語り継ぐ、決戦の終止符の瞬間だった。

第3話 (2014/05/04 update)

「あー! 負けたよ、負けでいいよ」
 コリエンテのその言葉を聞いて、思わずにやけた。
「よしっ」
 両腕を夜空に突き刺し、そのまま草の上に倒れ込んだ。息は乱れ、心臓がはち切れそうなくらい激しく動いていた。
 コリエンテも同様に、オレの右横で夜空を見つめていた。コリエンテもかなり激しく息遣いを見せていた。
「でも……。どうせ、コリエは……はぁ……。候補に……選ばれるだろ……」
 多少落ち着いてから話しかけたが、まだ呼吸を整えられなかった。
「いや……。はぁ……はぁ……。お前も、来いよ」
「どうかな……。俺みたいな……田舎もんが……はぁ……。選ばれないって」
 お互い顔を向き合うことはせず、仰向けのまま半月に向けて話し続ける。
「そんなことはない!」
 せっかく整ってきたコリエンテの呼吸が、大声を出したせいでまた大きく息を何度か吸い続けた。
「自信を持て! パスク、お前ならできる」
「そうは言ってもな……」
「俺はお前と一緒に、『あの場所』に行けたらいいなと思っている」
「『あの場所』か……。夢のような話だ」
「これは俺の希望じゃなく、約束な」

 決戦からちょうど一ヶ月が過ぎ去った頃、心配事があって故郷に戻っていた。
 季節はすっかり冬の装いで、山奥にあるこの村は深い雪で埋もれていた。
「これ、大丈夫か……」
 いつになく雪が降り積もり不安で帰ってみたら、木造の実家がサービス満点のかき氷のようになっていた。
「で。シロップをかけたら完成する寸前まで家を放置して、何してやがった」
「やーね。お買い物よ。お・か・い・も・の」
「何日間かけて行っていたんだ!」
 雪があるとはいえ、半日くらいで往復できる所に街がある。一週間はかからない。それと、クオリティの低いダジャレを吹き込まれたことに関しては、スルーすることにした。
「そもそも親父は?」
「中じゃないかしら? ここのところ具合が悪いから」
「なんちゅう母親だよ……」
 家も旦那も放っておいて、なにしているんだ。
「ん? 『具合が悪い』って?」
「最近、胸のあたりを押さえることがあってね。心臓の病気かしら」
「風邪みたいに、さらって言うな!」
 まったく、この母親はどこからが本気なんだが。
「親父も心配だが、屋根上の雪かきをするか。家がなかったら元も子もないからな」
「じゃあ、あたしは中で休むとするよ」
「手伝え!」

 親父の面倒を見るという名目で見逃し、ひとり雪かきをすることにした。
 新雪が多いせいか、固まっている部分が少なく容易に進められた。片側を終わらせて見上げてみると村は白い平原へと変わったことを見ることができた。
「こんなに降ったのか……」
「パスクさん!」
 下の方から呼び声がする。女ぽいの声だが、脳天気な母親の声ではなさそうだ。降りてみると若い女性が立っていた。
「わたくし、使いの者です」
「よくここにいるってわかったな」
「自宅にはご不在で、随分と探しました」
「そりゃ、悪かったな。こんな山奥まで来させて」
「パスクさんに、これを」
 一枚の紙を手渡された。すぐさま内容を確認した。
「……いいのか? これ」
「ええ。わたくしの長が仰るには『あんたみたいな田舎者を入れるなんてどうかしらと思うけど、特別に。恩情で。かわいそうだから。慈悲で候補に入れてあげる』と申し上げておりました」
「二重鉤括弧の部分が気に入りません!」
 受け取った手紙には『候補入りを認める』としか書いていないのに。

 

 なかなか思うような成績を残せなかったが、それでも食らいついていった。

 

 そして月日は流れ、今回こそは……と、思っていた。が……。

山間のイメージ

 

 

「走馬燈のように駆け巡った思い出も、そろそろ終わりにしませんか? マジで!」

第4話 (2014/05/22 update)

 細長い体つきにしては、筋肉はしっかりと蓄えてあった。日焼けは程々にしている。
 背が高いことに加えて、逆光から近寄ってきたため、余計に威圧感を増した。
「いい加減、降参したらどーなんすか?」
「てめぇの長髪を、切り落としてからな!」
「どうやって? 体ボロボロじゃないっすか?」
 確か二十一歳だと聞いている。年上に対して、口の利き方を知らないようだったので、徹底的に教えてやろうと挑んだ。
 だがこいつ、ひょろそうに見えるが動きが機敏で、こっちの攻撃をことごとくかわしてきた。そして、無駄のない的確な攻撃。一度は反撃に出たがそれも虚しく終わり、地に這いつくばる結果になってしまった。
「この選考会、トーナメントじゃなくてよかったですね。勝ち上がりだったら、もう終わりっすからね」
 この騎士団に入るための選考会、候補者が全国に散らばっているので、期間内に探して戦えってもので、歩き回ることになる。最低でも候補者の八割と対戦していないと失格。意外と見つからず脱落するものも毎度出る。
 大概は有力候補に的が絞られやすい。じっと構えてくれたらいいのだが、向こうも集中砲火を避けたいため、だいたい逃げ回っている。オレはあえて勝ち目がありそうなこいつを狙って来てみたが失敗だった。
「気合いが入っていたみたいだったが、残念だったすね。コリエンテさんは、選ばれたのにな!」
 そう。前回の選考会でコリエンテは選ばれて、見事入ることができた。さぞ大喜びかと思いきや、意味深な言葉を残していたのが気がかりだった。誰かがどうとか、そんなことを言っていた。
 この国の中心地、王室がある宮殿近くの城下町。ここでコリエンテと会った。その時いろいろ話したが、最後にコリエンテが指を指して、ひとつの約束を交わした。

「ま。今回はオレの勝ちっことで」
「まだ、終わっちゃいない!」
「口以外動かせないやつが、何言っているんすか?」
 軽く舌打ちをした。
「もうパスクさんとは会わないと思いますが、お元気で」
 嫌みたらしく言うと、そのまま去って行った。
「なんであんなやつに、負けなきゃならないんだよ!」
 ひとり残されると、大空に向かって叫んだ。
 勝たなきゃ。これでは約束が果たせなくなる。

 動けるようになるまで、宿で足止めを食らった。
 帰ろう。それも実家に。そこで傷を癒やしてから再出発しよう。
 帰路の途中で、強い候補者に出会わないことを祈りながら。
 六日もあれば帰れるだろうと思った、二日目。
 頭から籠をかぶった変なやつに声をかけられた。


5話〜9話