「パスク、あの場所で待っている」 ※Kitten Heart BLOGより移植

第5話 (2014/07/15 update)

「ちょっと、そこの人」
 帰路の途中、一人の虚無僧に声をかけられた。虚無僧って知ってる? 簡単に説明したら、頭から籠を被って寄付を募っている人です。
「金ならオレはないぞ。むしろ恵んでくれ!」
 宿代やら治療費で、だいぶ財布事情が厳しくなってしまった。
「そうではない。お主に聞きたいことがある」
「なんだよ」
 面倒なやつに絡まれたと、適当に返事をした。
「twenty(トゥエンティ)を知っているか?」
 その言葉を聞いた瞬間、全身がぞっとする寒気にも似た感覚を受けた。
 この国には、国王を始めとした王族が住む御所がある。政治に対してどうこうオレは言うつもりはないので、特にこれには触れない。この御所を守る2人の騎士。それと全国に散らばる18人の騎士。御所配属は一定期間常駐して、誰かと入れ替わりで当たっている。これがこの国の平和維持の方法だ。
 世間的には所属人数を表した愛称のみで呼ばれているが、正式にはこう言われている。
 ——王室直属騎士団『twenty』
 そして、現メンバーの一人こそがコリエンテだ。
「twentyがどうしたっていうんだよ」
「入りたくはないのか?」
 ひとつ、深呼吸混じりのため息をついた。
「……声でわかっていたけど、お前……利汰右衛門だろ。いつからコスプレするようになった? 流行らないぞ、それ」
「なあに。他の候補者と無意味に当たらないためだ」
「だったら、オレに声をかけるな!」
 山沿いに進めば避けられたが、先を急ごうと海沿いを進んだのがやはり間違いだった。なんとなく、当たるような気がしてならなかった。
「意味は当然ある。パスクさん、あなたを見た瞬間から」
「ケガの状態を見て、決めただろう!」
 いや、平常心、平常心。これも作戦だろう。
「では、拙者と騎士団入りを懸けて、勝負願おう」
「……やめておく!」
「おいっ!」
「人のケガ具合を見ろよ……」
「それもまた、運命だ」
 どんな運命だよ、それ。
「まあ、そんなに嫌ならさっさと片付けてあげよう」
 すると頭に被っていた籠を脱ぎ捨てると、ちょんまげ頭があらわになった。
「絶対に突っ込まない。絶対に突っ込まない。侍のコスプレも流行らないなんて、絶対に言わない!」
「パスクさん。声が漏れていますよ」
 絶対にこいつ、笑わせようとしている。
「正直、お前にはやられたよ」
「では、拙者の勝ちということで」
「そういう勝負じゃないだろ」
 何でだろう。ものすごい疲労感に襲われた。
「それで、相変わらずあの刀か?」
「左様とも」
 利汰右衛門が取り出したのは、片刃の反りがあるものだった。

第6話 (2015/01/09 update)

 十数年前まではこの国は荒れていた。そもそも治安が悪く、略奪といったことが頻発していたくらいだ。
 そこへひとりの人間が考えたシステムにより、劇的に変わった。それは王室直属騎士団のあり方だった。それ以降というもの国は安定を保ち、今となっては平和な国へと変わった。そして考案者は『天才的英雄』と称され、地位と名誉を手にした。

 

島のイメージ

 導入当初は、なかなかうまくはいかなかった。しかし、五年後くらいには成功への兆しが見え始めてきた。
 その頃だったか。
「利汰、遅れるのじゃあねえぞ!」
「はっ! 申し訳ありません」
 当時の『twenty』のメンバーのひとりに、弟子入りする形でついて回っていた。これには、いろいろメリットがあった。実戦の中で経験を積むことができ、何より『twenty』の活動を見て学べる。
「ところで、本日はどちらへ」
「海を渡ったところに島があり、そこに城がある。ここいらで悪さをしとる山賊の住み家だ」
 まわりは海なのに山賊なんだと、ちょい疑問に感じた。活動の際、海を渡り暴れるので概ね間違ってはいない。
 師匠を先頭に兄弟子の二人の後をついて行った。
 この兄弟子たち、仲がよろしくない。犬猿の仲と言うべきか。ほとんどのことはくだらない力争いだった。仮にどっちかが上と決まっても、師匠の跡継ぎにはなれない。何故なら推薦はあっても、最終決断している人間が違うから当然である。
 一行は、船着き場から一隻の船を借りることとした。小さな帆船ではあるが、それほど窮屈ではなかった。行き先も肉眼でも見える距離、これで十分だ。
 順調に船を進めると目的の島が見えて来た。
「利汰、ちいと様子を見てきてくれ」
 やっぱり一番下っ端が行くのか……。

 夕暮れになるのを待ち、人影がなさそうなところから上陸した。400mほどの山頂にその城はそびえ立っていた。
 城といっても大きくて立派なものではなく、こぢんまりとした屋敷といったところだ。そこへ迷路のように石垣で取り囲んでいる。平屋建ての屋敷で造りもしっかりしていてなかなか良いところを拠点にしている。
「そんな感じで、敵は五十人くらいですかね」
「とりあえずだな——」
 船に戻ると作戦会議が行われた。

 日の出前、例の石垣を通り抜け本丸へと突き進む。警備体制は緩くあっさりと中まで入れた。
「これって奇襲作戦ですよね……。王室直属騎士団なのに」
「黙れ。それにな、その肩書きは効力がねえ」
 名乗って素直に聞いてくれたら、確かに苦労はないな……。
「頭はおるかー! わしと勝負せー」
 取り囲まれたが、師匠は威風堂々とした振る舞いだった。
「王室直属騎士団が、何用だ」
 奥から体格のいい大男が出てきた。右手には金棒を携えていた。
「わしたちを知っとるなら、心当たりがあるじゃろう」
「おのれー!」
 突然、群衆の中から数名飛び出してきた。
「オレの方が、斬った人数が多い!」
「お前より、オレの方だ!」
 その群衆をあっさりと片付けたのはいいが、またいつものように兄弟子二人が斬った人数について言い争っていた。
「こうやって慌てるじゃけど、なんよりの証拠だ」
「王室直属騎士団がなんだ!」
 すると師匠は群衆をかき分けるように斬りつけ、頭と名乗る大男までの距離を詰めた。
「王室直属騎士団がどうゆうもんか、力の差を見せてあげるよ」

 

 

「しかし。師匠、見事でしたね」
 師匠の刀を前に、大男の金棒は太刀打ちできなかった。その後は制圧も難なく進めていった。
 帰りの船は大いに盛り上がった。

 だが、師匠と兄弟子たちと過ごした日々はそう長く続かなかった。

第7話 (2015/02/14 update)

「利汰右衛門さん! あなたしか他にいないんです!」
 山奥にひっそりと建てられた明らかに雑に作った木造小屋に、若い町娘が息を切らして入り込んできた。
「拙者には何も出来ぬ。出来たら数年前——」
「そんなことを責めても、町が大変なんです!」
 町娘は大事そうに抱えていた一本の刀を目の前に差し出すが、思わず目をそらした。
「拙者はもう……」
 すると町娘は刀を押しつけ立ち去ろうとしたが、小屋の出口前で立ち止まった。
「そんなことだから、ダメなのよ!」
 手渡された刀を見つめて思い返した、数年前のことを。
「……確かにあなた様の父上には、大変世話になった」
「じゃあ、やってくれるのよね」
 強気な町娘は、答えを一つにさせようと他ならなかった。

 

 

 師匠が王室直属騎士団の一員として健在だった頃は、ならず者はいたが圧倒的な強さを誇り秩序は一定に守られていた。

 それも数年前までだった。師匠が打ち勝つことが出来ない敵が現れてしまったのだ。
「利汰、すみまねぇ」
「いえ、構いません」
 重い心臓病を患い、現役だったころの勢いは消し去り、弱々しく受け応える師匠を看病していた。
「町が心配じゃ。うちがこねぇな状態でなけりゃぁ、見ることが出来たが」
「兄さんたちもおられますし、心配することはありません」
「そうか、頼む」
 だったらいいのだが……。

 師匠が病床に付いてからは、兄弟子二人の力比べが一層激化した。このまま師匠が回復の見込みがなければ、騎士団から外されることは容易に想定できる。代わりに誰かが意志を継いでも、候補に入ることから始めなくてはならない。仲良くやってくれたらいいが、いずれはどちらかに絞られることになるので、この争いが絶えなかった。
「どっちが候補に相応しいか、決闘しようじゃないか!」
「望むところだ!」
「二人とも止めて下さい」
「利汰は黙ってみていろ! これは男の決闘だ!」
 兄弟子二人の動きは師匠を彷彿させる素晴らしく、自分が止められるレベルではなかった。力が対抗しており、決着はつくことがなく、開始直後に真上を指していた日はとうとう暮れてしまった。
「もう引き分けでいいじゃないですか」
「とりあえず、勝負は持ち越しにするか」
 二人は疲れ果ててその場に倒れ込んだ。結果はどうあれひとまず収まった。ただ、町の方が騒がしくなり、様子を見に行った。
「山賊が出たんだ! それも大人数で乗り込んできたんだ!」
 町人の一人が血相を変えて駆け寄ってきたが、その話に呆然となった。
「ウソだろ……。兄さんたちは動けないし……」

 

 

 隠れ家にしていた小屋を無理やり町娘に連れ出され、落ち葉で敷き詰められた山を駆け下りていった。
「しかし、拙者は辞めた身。出来るかどうか……」
「あなたは父の弟子でしょ! 私はあなたを信じるしかないの!」
「兄弟子二人を見捨て、師匠の最期を看取ることもしなかったのに……」
 大勢の山賊が乗り込んできたあの時、怖くなり疲れ果てた二人を置き去りにして、そのまま山奥に逃げ、それ以来引きこもっていた。
「その結果がこれ。罪悪感があるなら、責任とってね」
 町は山賊たちが占拠し、町人たちは別の所に引っ越したが、そこさえ嗅ぎつけられ襲われ、このあたり一帯は荒れ果てていた。
「しかし、拙者は皆を裏切って……。もう許されまい」
 かつては活気に溢れていた町人には生気すら感じず、廃墟同然の町屋を目の当たりにしていた。消極的な考えにもならざるを得なかった。
「それは、山賊を懲らしめてから言うことでしょ」
 相変わらず強気な町娘は、ひとつの家屋へと案内する。
「利汰右衛門さん! あなたが来るのを待ち侘びていました」
「ここは?」
「自衛団……ってところね。でも、山賊に勝てるだけの力は無い」
 声をかけてきたのは一人だけで、あとは大怪我を負った数名が薄暗い奥の部屋で寝込んでいた。ひどい有様で、目を覆いたくもなる。
「もう、抵抗する戦力すら無い状態です」
「しかし、拙者一人の力では……」
「これだけ見て、今更逃げようなんて無理だからね」
「お願いです。山賊共と太刀打ち出来るのは、王室直属騎士団かそれに近い者……」
 助けてやりたいが、恐怖心が前方を塞いでいた。
「拙者には、皆が思うような期待には添うことは出来ぬ」
「では、なぜあなたは父の刀を手放さず、握りしめているのですか?」

「なんだ。数年前、逃げたひよっこじゃねえか」
「何のことか。山賊共め」
「また、逃げたくなったらいつでもいいぜ!」
 山賊たちがいる町中にやってきたが、すぐに山賊たちの嘲笑で取り囲まれた。その方がいい。油断しきっている。
「頭はおるかー! 拙者と勝負せー」
 数年前と同じ大男が出てきて、同じく右手には金棒を携えていた。あの頃と何も代わり映えが無かった。
「師匠。必ずあなたを超えて見せます」
 天に向かって叫び、そして大男に向けて刀を振りかざした。

第8話 (2015/02/28 update)

「——それで、相変わらずあの刀か?」
「左様とも。この刀には、皆の期待がかかっているのだ!」
 鞘から抜き出すと反射光で銀色に輝き、そして刃先をオレの方に向けてきた。
「師匠の形見だっけ? 前に聞いたな」
「パスクさん。あなたを倒します! これは拙者の罪滅ぼしでもある」
「お前の諸事情なんぞ知るか! こっちにも約束ってものがある」
 面倒なやつを相手にしてしまったな……。
「では。いざ勝負!!」
 利汰右衛門は、空を差すように刀を上方に向けて構える。そして、電光のように素早く走り込んでくると勢いそのままに刀を振り下ろした。
「避けないのか……」
「悪いが、避けるほどじゃあないね」
 我が愛剣は、利汰のものを違って直線の長剣になるが、利汰右衛門の刀をしっかりと受け止めてくれた。
 しかし、避けなかったのは正解だったかもしれない。こちらが避けることを想定して、次の手を考えていた。というのは、受け止めたが思っていたより重さがなかった。材質の違いで重さ自体の差はあるが、あいつは明らかに振り落としてから力を抜いた。わざと逃げさせてそこを狙って斬るつもりだったのだろう。ケガもしているので、俊敏には動けないだろう……などと思案していただろう。
 受け止めた刀を弾き返し、利汰右衛門との間合いを空ける。
「今度は、確実に仕留めさせていただく」
「そうはさせないさ」
 再び混じり合い、ほぼ互角の戦いを起こす。
 利汰右衛門のことは、一度は手合わせをしているので、よく知っている。そして、あの後のことを熟知している。普段はおちゃらけているところもあるが、隠したい過去がある。むしろ隠したいからああいう振る舞いをしているものだと、オレはそう受け取っている。
 力不足で大怪我を強いられてしまうが、利汰右衛門は一人で山賊を追い払うことに成功した。そして、天寿を全うした師匠の代わりに、王室直属騎士団を目指すことになった。もちろん町の人々は歓喜した。だがそれは表向きだったことくらい、利汰右衛門も理解していた。たった一度逃げ出した事により失ったものの大きさを、顔には出さなかったが常に痛感していた。仮に王室直属騎士団になったところで失ったものが戻ってくる保証なんてどこにもない。それでも利汰右衛門が王室直属騎士団を目指したのは、自分の存在価値がそこにしかなかったから。
「スキあり!」
 利汰右衛門が僅かなチャンスを見逃さず振りかざし、それを避けようとしたがかなり無理な体勢から動いたために、左脇腹に激痛が走った。
「あああぁっぁあぁ……!」
 えぐり取られたような痛みを抑えずにはいられなかった。
「どうやら、傷口が開いたようだな」
「あぁっあ……!」
 利汰右衛門が言うように、前の戦いで負った傷口のものだった。
「では。これで終わりにしてさしあげます」
 左手で傷口を押さえ、激痛で顔が歪むオレに向かって、全力で利汰右衛門が斬りかかってきた。

第9話 (2015/03/07 update)

「やろう!!」
 条件反射というべきか、脳の指令系統を通る前に右腕が動いた。振り抜いた右腕は、利汰右衛門の刀を遙か向こうへはじき飛ばした。そして、蜂のように剣を突き刺し、利汰右衛門の喉元すれすれで止めた。
「……これで、勝負あったな」
 利汰右衛門はその場で膝をついた。
「せっかくのチャンスだったのに……! これでは、師匠に顔向けができない……」
 利汰右衛門は天高く大声で叫ぶと、目からきらりと光るものが流れ出ていった。オレも全力を尽くし、その場に倒れ込んだ。
「お前の師匠はいいよな……。オレの師匠なんか——」
 話しても愚痴っぽくなってしまうので、言うのをやめた。いい師匠に出会えた利汰右衛門が羨ましかった。
「……そういえば、お主の師匠。北の方にいると聞いたな」
 暗かったが落ち着きはあり、しっかりとした口調だった。
「ホントか? なら南の方を通って帰るか」
 このまま東へまっすぐ進むと大きな山がいくつも連なり、北と南どちらか迂回するしかない。
「会いたくは、ないのか?」
「それは冗談だけにしてくれ」
 苦笑いしながら、傷だらけの体をゆっくりと立ち上がった。体が重くてよろけそうになった。
「帰るのか?」
「ああ。実家の近くに、いい湯治場があるんだ。そこでひとまず体を休める」
「そうか……。よろしければ、一晩ウチに泊まらないか?」
「いいのか?」
 一度対戦した相手との再戦は不可能。結果を恨んで襲いかかるのも禁止……などと規定があり、不正もできない体制になっている。なので、今の利汰右衛門は安全な相手である。

 山奥の家に一晩泊まることにした。前にも来たことがあるが相変わらず古びており、風が吹くたびに戸が不安な音を上げてくる。
「悪いなぁ。飯までもらって」
「構わないさ」
 向き合うように床に座り、利汰右衛門から晩飯を頂く。期待していなかったが、鯛の尾頭付きが出てきたのは意外だった。
「今朝釣った。気にせず食べてくれ」
「あっ、ああぁ……」
 若干気が引けたが、お言葉に甘えて頂くことにした。
「パスクさんに聞きたいことがある。この選考会、最後に何があるんですか?」
「さぁ……? コリエンテも詳しくは言ってくれなかった」
「左様か。ならば拙者はここを出て、西へ修行し直すとするか」
「オレも傷を癒やしたら、そのつもり」
「今回は、かなりの強者が参加していると聞いておる」
 利汰右衛門がそう言うと、家の空気が重くなったような気がした。
「まあ、勝つしかないな」
「もし、次があった場合は、パスクさん。あなたには負けません」
「今回は危うかったが、次があったら余裕で勝ってやるよ」

 朝早く、利汰右衛門を起こさないように家を出ることにした。なんだか別れるのが惜しくなりそうだったから。
 朝霞が立ちこめる中をひたすら山を下り、海に出た。そのまま海岸沿いに東へ突き進んだ。少しでも早く帰るため、一度は山越えもしていった。
 適当な宿を見つけ、傷をいたわるように一晩過ごした。
 そして、翌朝も霧の中をかき分けるように進むと、一人の老人と出会った。

 ——出会うなら、もう少し先がよかった。


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