「パスク、あの場所で待っている」 ※Kitten Heart BLOGより移植

第10話 (2015/04/08 update)

「まさか……ここであなたに出会えるとは思っていませんでしたね」
 苦し紛れに笑って見せたが、どことなく高揚感に満ちあふれていた。
「もうちっと、後の方がよかったかじゃろうか?」
「いえ、とんでもない。いずれはお目にかかることになりますからね……」
 老人は不敵な笑い方をする。自信があるんだろうな。
「わしを倒して、行くというのか」
「親友との約束ですので。『あの場所』に行くと」
「お前らが言う『あの場所』とは、『ヒルズ・オブ・ネビナ』のことじゃろ」
「……さすが。ご存じで」
 やっぱり知っていたかと、苦笑いを浮かべるしかなかった。
 この国の中心地、王族たちが暮らす一郭がある。これを囲うように街が形成されている。ここから見て東側に作られた場所に王室直属騎士団の詰め所がある。この場所こそ、『ヒルズ・オブ・ネビナ』と呼ばれている。
「ここからの景色はいいものじゃった」
「でしょうね。選ばれし者のみが入れる所ですからね」
 何が言いたいんだ、この老人。嫌みにも聞こえる。
「しかし、あなたがここにいるっていうのは、意外ですけどね」
「世の流れというものじゃ」
「そのまま引退して隠居生活でもしていただけるものだと、思っていましたが」
「まだまだわしは、現役じゃ」
 何気ない台詞だが、威圧感を乗せてくる。素性を知らなければただの老人にしか見えないに、途轍もないオーラを感じる。
「二、三年ほど師匠に付いて回っていた時代、あなたの戦い方を見ています。その時と雰囲気が変わらないから恐ろしい」
「それはそうと、師匠殿はご健在かね」
「ご存じなんでしょう、数年前に騎士団を外されたくらい。そもそも、独り立ちしてから長いこと会っていませんけどね」
「会いたくない。……ってところじゃろうな」
「小言を言われたくないので。あなたみたい」
 睨み付けるように言ってみたが、また不気味とも言える笑い声を上げた。
 オレもコリエンテ、利汰右衛門もそうだが、『twenty』のメンバーの元に付いていた時期があった。誰かにつかなくても候補には入れる。ただ、いくつかある選択肢の内、それが一番の近道なだけだった。
「わしのはアドバイスじゃよ。彼奴とは違う」
「そうは見えませんけどね」
 すると、目の前にいたはずの老人が消えた。
「今の動きは見えたかな?」
 後ろの方から声がするので振り返ると、そこにあの老人が立っていた。
「それと、これは返そう」
 何かを投げてきたので、受け取った。
「あ! オレのサイフ!!」
「それでもまだ『小言』というつもりかな?」
「さすが、長年在籍していただけありますな……」
「それでもわしに勝負を挑むかね」
「いや……。なかなかこういう機会はないので。元・王室直属騎士団と対戦できるのは」

第11話 (2015/07/06 update)

——『セーキ』
 この名前を知らない方がおかしいくらい、有名な人物。
 若かりし頃は国中を放浪し、強者と剣を交わしては名を轟かせ、己の腕を上げていった。当時は今と違って選考会がなく、とにかく腕の立つものを入れていた。心機一転した王室直属騎士団にスカウトされて入団。それ以来の活躍は言うまでもなく、群を抜いていた。最近になって外されたと聞いて、てっきり年齢によるものだと思っていた。それが選考会に参加して目の前にいるわけだ。
「そろそろ、若手に譲ってもらいましょうか」
 とはいえ、じいさんが言うように確かにまだ『現役』だ。全盛期よりかはスピードが落ちているが、サイフを抜き取る一連の動きは見えてなかった。だが、もしあれが全力に近いなら……。
「まだ、譲るわけにはいかんな。わしにもやり残したことがある」
 じいさんの戦い方は分かっている。……ならば!
「正々堂々、勝負させて頂きます!」
 使い慣れた我が剣を閃光のごとく振り抜いたが、予想通りじいさんにはいとも簡単に交わされた。まあ、それでいいんだが、あの速い動きをどうにか止めなくては勝ちは見えてこない。腕を後ろで組み、一見無防備そうで隙のないじいさんを……。
「どうしたかね? もう終わりか?」
「これからですよ」
 挑発をかけてやろうと思ったが、先にやられた。
「では。いかせてもらいます」
 素早く右足で蹴り出し左から右へ引き抜いたが交わされた。そこへ息つく間もなく斬りかかったが、それすら交わされてしまった。
 確かに速い。しかし、攻撃パターンを試行錯誤やってみて、動き方が徐々に分かってきた。それに……思っていたとおり、やはり老体。これだったら……!
「この勝負、勝たせて頂きます」
「なかなかの自信じゃな」
 怒濤の連続攻撃を相変わらずじいさんは交わしてくるが、考えていたとおりそのスピードは確実に落ちてきている。天下のセーキも年齢には勝てない。
「これだったら、どうだっ!!」
 全力で斬りかかったが、何か硬いものに受け止められた。じいさんは通常のものよりやや短めの中剣を二本と、短剣を数本隠し持っている。だが、攻撃時にしか使わず、防御はスピードを生かして交わしてくる。それを二本の中剣で受け止めるということは、追い込んできた証拠。
 勝てる。元・王室直属騎士団に!
 猶も攻撃を仕掛けるが、もう交わさずに中剣で受け止める。あともう少しで……!
「やはり……じゃな」
「なにが、だよ……?」
 不敵な笑みを見せると、一旦離れて距離を置いてきた。するとじいさんは、その場で軽く数回ジャンプすると、消えてしまった。
——違う、見えなかった。
 かまいたちを思わせるスピードで、体の至る所を斬りつけられた。
「やはり、わしの体力を奪って、隙を作るつもりだったか。疲れたフリをしてみたら予想通り」
 まだトップスピードを出せる力があったか。いや、作戦を読まれてセーブされてしまったというべきか。
「それに、お主はもう負けじゃ。誤算が大きすぎる……」
「まだ、判らない!」
 残っている力を振り絞り、じいさんに向けて振り続けた。しかし、力強く踏み込んだ瞬間に激痛が走り、耐えきれず剣を離してしまった。
「大怪我さえなければ……。体力が完全回復していれば……。だが、その誤算は言い訳に過ぎない」
 抵抗する体力は残っておらず、激痛に耐えうる気力もなく、倒れてしまった。
 じいさんの言うことは事実だ。そして、経験の差がありすぎる……。
 地に伏せて見上げると、じいさんが横に立っていた。
「……なんだよ? もう勝負は付いただろ」
「起き上がれ。……ひとつな、教えておこうと思ったことがあるんじゃ」
 そして、じいさんの口から意外な人物の話が飛び出た。

第12話 (2015/08/02 update)

「ひとつだけ、お主に助言を授けよう」
 背はこちらに向け、なにか遠くを見ているように話し続ける。
「王室直属騎士団になりたかったら、あの女には決して逆らわない事じゃな」
「あの女って……。どういうことだよ」
「いずれ、それを知るときが来る」
「なんだよ、それ……」
 もったい付けさせておいて言ってくれず、僅かに残っている力さえ流れ出そうだった。
「詳しくは言えんじゃが、なにしろ監視員がおるからな……」
 選考会参加中は、使いの者が交代で参加者を常に隠れて見張っている。それを上に報告しているわけだが、そのこと自体は参加者も周知である。
「そんなに、まずいことなのか……?」
「いや、監視員が報告するのは、対戦結果と適正に行われたか。それ以外は言わんよ」
「だったら、もったい付けないで言えよ」
「万が一、お前さんが残ったとき——或いは、手前まで来たときに不利になると思ってな」
「そうなのか……?」
「それはわしにも分からん。選考会参加は初でな。用心することには越したことはないだろう。じゃがな、これだけは言える」
 ひと呼吸置いて、それから発した言葉——
「逃げたくなるような選択肢を迫られても、前に進め」
 よく分からないが、その言葉が重くのしかかった。
「伝えたいことはこれだけじゃ。わしは次の対戦者を求める」
「理解はできないが、ありがとう……ございます」
 あまりのことに話がついていけず、つい敬語を忘れそうになった。
「それでよい。その時になって思い出せばよいのだ。それはそうと、怪我は大丈夫かな?」
「実家の近くに、いい湯治場がありまして」
 全国でも指折りのところで、怪我やほぼ全ての病に効能があり『医者要らずの湯』とまで言われている湯治場がある。そこならこの傷も癒やせるだろう。
「ならばよい。でも、気をつけるのじゃよ」
「はい、ありがとうございます」
 帰る後ろ姿を見て、思わず叫んだ。
「セーキさんも、お気をつけて!」
 こちらに振り返ることなく、右手を挙げて手を振った。

 

 オレも帰りを急ぐことにした。実家に着くまでは誰とも対戦したくないし、できる状態ではない。とにかく帰らなければ。
 しかし、いろいろ気になる。
 まずは、監視員。今回が初めて参加したわけはないので、存在はもちろん知っていた。どうも一人ないし二人が常に監視している。こちらが寝ているときも監視しているのだろう。
 その情報は、二十人の騎士団を束ねる長に集まり、選考会の判断に使っている。じいさんが言ったとおりぐらいの伝達だが、本当にそうなのか。
 それと、じいさんの言葉。どういうことなんだ。自分で判断しろって事か……?

 

 そして——『あの女』か……。


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