「パスク、あの場所で待っている」 ※Kitten Heart BLOGより移植

第13話 (2015/09/02 update)

「痛っ。なにすんだよ!」
 久々に実家のある村に帰ってきたが、オレの顔を見るなり村の子供たちが突然石を投げつけてきた。
「弱ーんだよ!」
 とっちめてやろうと追いかけ回したが、怪我と疲労を背負って逃げ足の速い子供を捕まえるのは容易ではなく、まんまと逃げられてしまった。
 懲らしめるのは後にして、帰宅を急ぐことにした。
「おやおや、まあまあ。どうしたんだい、その怪我は?」
「まあ……いろいろとな。生傷は、さっきガキ共にやられた」
 ようやく一息つける場所に来れたが、油断はできない。この間にもどこかで対戦しているかもしれないし、スキを狙ってやってくるものもいる。
「しかし。いつからこの村は、人に石を投げつけてもよくなった?」
「みんな、あんたに期待しているのよ」
「期待をしていたら、石を投げてもいいのかよ!」
 むちゃくちゃだな、オイ。
「どうだい、今のところは?」
「一勝二敗ってところだ」
 確かにこれだと子供たちの方が正論だな。もし騎士団に入れば、村のとっては初めて。期待が集まるのは当然か。
「しばらくはここにいるつもりだ。怪我を治しに来た」
「そうかい。じゃあ、二、三週間はいるのかい?」
「そうだな……。そのつもりだ」

 この村は山奥に温泉が湧き出るところがある。ここの効能が評判で、噂を聞きつけてわざわざ遠くからここへ訪れるものがいるくらいだ。小さな村だが、温泉のおかげで村人は裕福でいられる。もちろん入浴料を取るわけだが、村民はタダで入れる。ここで静養を決めたのは、実家のそばで金銭的に安くすむからだ。
 いくつか共同浴場があるのだが、その中でも一番奥に当たる浴場を選んだ。湯治客に紛れて襲われても困る。できるだけ人が少ないところにした。
 昼過ぎだったが、予想通り誰もいなくガラ空きだった。湯煙の中をかき分けて湯船を探す。さほど大きくはないが、人もいないことだし具合がよかった。
 ここの源泉は温度も高く、強酸性でもある。そのまま入ったら茹でタコみたいになる前に、まず体が持たない。そこで、ここではまず源泉を冷ます巨大な池があり、ここから各浴場へと流れていく仕組みになっている。
 それでもまだ熱い。だが、ここで生まれ育ったオレにはちょうどよかった。温度は申し分なかったが、強酸性の湯が傷口を刺激して顔を歪める。でもこれが効くんだ。
 東屋の中に湯船があり、そこから濁りのないきれいな川が見える。そこの景色を楽しみながら、時折吹き下ろす山風に当たり体を休めていた。

 突然のことだった。浴場ものども切り刻まれるように崩れ落ちた。そして隠れる場所なんてなくなった。
 やっぱりな……。無防備状態である今こそチャンスだろう。オレにだってそこは分かっており、剣だけは手元に抱えておいた。
「出てこいよ! 勝負してやるから!」

第14話 (2015/09/06 update)

「パスクは、強いな……」
 幼少期のことだった。このあたりの温泉街はもちろんのこと、山や川を同じ村に住む同年代の子どもたちと一緒に駆けずりまわっていた。この一帯は自分たちの庭のように遊んでいたので、細かいところまで熟知している。よく罠だの作るなど悪さをしては、大人たちに怒鳴られた。
 村の仲間内の中では一番力が強かった。仲間の勧めもあり騎士団入りを目指すようになった。コリエンテたちと出会うのは、村を旅立ってからその後の話だ。
 ちょくちょく帰郷してきているので、ガキの頃と遜色なく地理は今も細かく把握している。

 なかなか敵は姿を現さない。崩れ落ちた瓦礫の中から衣服を探し出し、急いで羽織った。あたりは木々に囲まれており、どこかに身を潜めているのは確かだ。
 すると木陰から何かが飛び出してきたので、とっさに避けた。代わりに残されていた湯船を手早く切り裂かれて、中に残された湯が辺りを撒き散らした。
「避けやがって。このタコが!」
 とっさに交わしたオレを睨み付けてきた。
「お前か……!」
 あっという間に浴場を破壊した、一本の細長い剣。それを操る男も細身の高身長、後ろで束ねた黒い髪が、風に逆らうことなく揺れていた。
「おとなしく降参しろ! このタコが!」
「どうしてくれるんだよ、あの浴場!」
「タコが茹で揚がって、滑稽だったがな」
「タコ、タコ、毎度うるせえんだよ!」
 ビーフォンは、見た目のスタイルはいい。だが、オレよりひとまわりくらい年が上のはずだが、この通り口が悪い。
「タコは茹で釜が、お似合いだ」
 決め台詞を吐いてから、蹴り出してから仕掛けてくるまでのスピードはなかなかのものだった。ちょっと感心しそうになった。
「それを全て壊したのは、てめえの方だろうが!」
 突き刺すように振り抜いた剣を素早く体をひねって交わし、横から振り払った。
 その後もビーフォンは手を休めることなく、連続攻撃が続いた。ちっとも反撃なんかさせてもらえず体力だけが消耗していく。
「う……ぐっ……!」
 これまで初戦からずっと抱えている、左脇腹にえぐるような痛みを感じた。村の医者にも一度診てもらったが、湯治を一回したくらいじゃあ治らないよな……。長期戦だけは避けよう。
「攻撃しないのかよ、タコ!」
 こいつの挑発に乗ったら負けだ、冷静を保とう。そもそもこいつ、『タコ』が口癖なのかよく口にしている。オレのどこを見渡しても、タコと呼ばれる要素は含んでいない。
 それにしてもビーフォンの体力はなかなか落ちない。カウンターで振り抜くくらいしかチャンスがない。ワンチャンスを見逃さないと振り抜こうとしたが、ぬかるみに足を滑らせそうになり体制が崩れた。そこを逆に仕掛けられたが、それはさせないと我が愛剣で受け止めた。
 ああ、そうか……。そうだよな、その手があったな。
「ちっ。タコをぶつ切りにできると思ったのに!」
「ダメだな……オレって。村を——この街を守るといって、騎士団を目指したのにな……。小さな小屋すらこのざまだ……」
「このタコ、ついに降参でもするか?!」
「……お前がな。オレには捨てられないプライドがあるんだよ!」
 あれがまだ、あのままなら……勝てる。

第15話 (2015/09/10 update)

「言いたいことは、それだけか。タコ」
「それも言えないほどにしてやるよ。このタコ野郎」
 ビーフォンの舌打ちを合図に、再び剣を交わしあった。
 相手の攻撃を受けながら後ろに引き下がる。まあ、剣を振らせてあげているわけだ。こうやって森の奥へと誘い込む。
 木々の合間を抜けながら、攻防戦はなおも続いた。
「タコめ……! やる気あるのか!」
「ああ、あるさ。大いに」
 人がなかなか踏み入れない、かなり森の奥まで引き込んだ。高い木々たちが新緑の大葉で空を埋め尽くし、辺りは薄暗い。風がわずかに吹いており、葉がこすれ合う音がしっかりと聞き取れる。森の木々は思い思いに根を下ろして並びに規則性はないが、徐々に見覚えのある並びが見えてきた。この辺だな、あれがあるのは……。
「じゃあ、見せてやるよ。オレのやる気を!」
 ビーフォンの右を狙うかのように、剣を振り上げる。そうすれば、あいつは自分の左に避ける。予想通り左に避けたので、そのまま振り下ろした。
「……あっぶね!!」
「惜しかったな……」
 不敵に笑って見せたが、よろけても剣で受け止めたビーフォンを捕らえきれなかった。
「なんだ、ここは! ここだけ、地面がへこむ」
「ああ、そうだ。この辺は足場が悪い」
「それくらいは、お互い条件は同じだろ。この、タコ!」
 また、例のごとく右足を蹴り出し、串刺しにするかのごとく振り抜いてきた。

「そうか?」
 それを見切って振り払い、残った体力を振り絞りビーフォンを押しのける。正直、さっきので仕留めるつもりだった。けど、あれは——
「まだ、他にもあるんだよ!」
 狙い通りの場所に追い込み、再び体勢を崩せた。
「そう何回も、はまるか!」
 素早く体制を直し、左に体を移動させた。
「やっぱ、左だよな!!」
 ビーフォンの左足が滑らせたのを見逃さずに、最後の力を愛剣に込めて、あいつから剣を落とさせた。そして、倒れたビーフォンの顔に剣先を向けた。
「……悪かったな。この辺はガキの頃に落とし穴を作って埋めさせられた後が、所狭しとあってな。部分的に足場が悪いんだよ。オレは位置を把握しているがな」
 埋め戻す際、大人たちへのちょっとした抵抗で、落ちるかわりに泥濘で滑りやすいようにしておいた。まさか、ここで使えるとは……。信じて送り出してくれた旧友のためにも、勝たなきゃな……!
「この選考会は、なにがあっても国を守る騎士団を決めるもの。悪条件を言い訳にはできないよな」
「……タコめ。卑怯だぞ!」
「ああ? 奇襲作戦のお返しだ」
 風呂に入っている所を狙うのも、十分卑怯だぞ。
「あーあ。お前のせいで、この汗を流す風呂がひとつなくなったよ……」
「これは……せめてもの償いだ」
 戦意を失ったビーフォンから手渡されたのは、かなりの大金が入った麻袋だった。
「これで湯治場を直してくれ」
「ああ、わかった。村に管理人がいる。そこに伝えておく」
 悪気があるなら、奇襲作戦なんてしなければいいのに……と思った。

 しかし、今日はギャラリーが多いな。物陰に隠れて見ているのは、この森に入ってから気配で気づいていた。いつも候補者に一人ずつ監視員がついているのだが、二人体制にでもなっているのか?


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