第2話:夏実と春花

『才能は努力から成り立つ』と、よく言われる。
 でも、努力だけでは報われないことだってある。
 幼少期、はっきりその差が出ていた。
 燃えていた炎は、水をかけられ消えてしまった。
 優れた妹の方は、消されることなく燃え続けた。
 だからずっと夏実は、春花はるかが自分のことを嫌っていると思っていた。

 末っ子の秋菜あきなと共同で使っている子ども部屋で、憂うつそうに外を眺めていた。
 夏実の右手にはシャープペンが握りしめられ、机には教科書とノートが並べられている。
 ナナは机によじ登り、夏実の顔をのぞき込む。
 しばらくは気づかなかった。けど、気づいたときには驚いてイスごと後ろに倒れた。
 頭は打たずに済んだが、衝撃が背中にきてイタイ……。
「大丈夫……?」
 うなずきながらも背中をおさえて起き上がる。
「勉強?」
「うん、学校の。今度テストあるし」
 ため息混じりでイスを起こして座る。
「めんどくさいよ。本当は魔術の勉強をしたいのに……」
「そっちの勉強も大事だよ。基礎的なことは感覚で出来ちゃう人もいるけど、理論的なこと、物理的なこととか理解できなきゃダメだよ」
 それってどういう事と聞く。
「つまり、バカは魔術師になれないってこと」
 そっかあ……とシャープペンを手にする。
「ナナさぁ、これって分かる?」と、教科書を指さす。
「そういうことは教えられない」
 机から降りて、器用に部屋のドアを開ける。
「テストが終わったら、魔術のことは教えてあげるよ」
 夏実に一言、残して去っていった。

 一休みしようと、一階の台所へと降りてきた。
 冷蔵庫のオレンジジュースをガラスコップに移し替えて、コップの半分ほど飲む。
 台所から見えるリビングの窓から、芝生で敷き詰められた庭を見つめる。
 見慣れた景色に心を休めた。
 すると、外から春花が帰ってきた。
 二階に上がる前にリビングに立ち寄ったところ、夏実と目があった。
 おかえりと言った夏実の顔を見て、「ただいま。どうしたの? 浮かない顔をして」
「うん……。算数のテスト勉強中」
「教えてあげようか?」
 頼りないナナよりマシだろうと、その時は思った。

 しかし、燃えさかる炎のように夏実の甘い考えを吹き飛ばしていった。
「そこはさっき教えた所じゃない!」
 夏実が解答すれば、あーだのこーだの口を出してくる。
 いつも思う、春花は私に対してすごく厳しい。
 同じ姉妹なのに夏実だけ魔術が使えることに対する嫌み?
 嫌われているんじゃないかと思う。
「だから、それは違うでしょ!」
 だんだん嫌気が差してきた。
 こんなことなら頼むんじゃなかった。

 一時間くらいして休憩を入れることにした。
 これで口うるさいのからも休める。
「夏実さぁ、おじいちゃんみたいな魔術師になるんだって?」
「う……、うん」
 まさか、その話をしてくるとは思っていてもいなかった。
 だって使えないはずの春花が、使える夏実に対して嫌っているんじゃないのか。
 だから遠慮がちに答えた。
「夏実、がんばってよ。私も応援してあげるから」
 悪意のない透きとおった笑顔につられて、夏実も笑顔で返す。
「もう少ししたら続きをやろうね」
 応援って、そういうこと……?
 でも、その言葉はろうそくの炎のように、やわらかく優しい温かさだった。