第3話:夏実とホットケーキ

 魔術師になるって決めたんだ。
 まずは、何でも出来るようになりたい。

 手に持っていた鉛筆を転がし、そして手を突き上げて体を伸ばす。
 一息吐く……。ちょっと満足感。
 夏実のベットで、気持ちよく寝ているナナを見つけると、すかさず抱き上げた。
 こっちは不満気。
「なに……夏実ちゃん」
 たたき起こされて、まだ眠そう。
「終わった……!!」
 いまいち状況が把握しきれない。
 つい、『なにが?』って聞いてしまった。
「明日は頑張れそうな気がする」
 それじゃあ、分からないよ。
 そういえば、明日テストがあるとかで、勉強していたな……。
 そのことかな。
「そろそろ、お姉ちゃんの手伝いをしようっと」
「お夕飯?」
『そうっ』と答えてナナを、元のベットに下ろす。
 母親が入院してからは、どうしても仕事が忙しい父を思って、春花が中心となってやっている。
 一階に下りると、すでに春花が準備していた。
「夏実さぁ、今日は久しぶりにハンバーグにしようと思うんだけど」
「うん。ハンバーグ好き」
 エプロン姿の春花を見て感じた。
「いいな……。料理がうまくって」
「そう?」
「前に作ってもらったホットケーキ、おいしかったし」
「自分で作ってみたら? カンタンだよ」
 そうなんだ、今度やってみようかな。
 春花は手早く作業を進める。
 指示されてばっかりの夏実にしてみれば、ただ見ているに近かった。
 でも、出来るようにならなきゃ。
 お姉ちゃんを少しでも助けるために。
「お姉ちゃんありがとね。勉強教えてくれて」
「いいって。姉妹なんだし」
 夏実の背中を軽くたたき、「テストがんばって」
 笑顔でこたえる。
 その言葉にすごく励まされた。

 テストから数日の放課後、晴れた空。
 握りしめた右手を突き出す。
 そして、九十点の答案用紙。
 いつも五十点台だったことを考えれば、かなりがんばった。
 それが、うれしくて仕方がなかった。
 家に帰ると、その喜びをナナにぶつける。
 ぎゅっと抱きしめた。
 すると、いつものように冷めた感じで、
「夏実ちゃん、おなかがすいた」
「あっ。そうだ! ホットケーキ、作ってあげる」
 そういってナナを抱えたまま、子ども部屋からキッチンへ降りた。
 先日、春花が買い出したホットケーキミックス。
 生卵と牛乳もある。
 ミックスの箱には、作り方が書いてある。
 確かに、そんなに難しくない。
 上機嫌に夏実は作っていった。

「夏実ちゃん、ごめん。もう……いい」
 それは甘くなかった。
 ナナの前には三段重ねの黒こげホットケーキ。
 その先には、大粒の涙をこぼす夏実。
 がんばれば何でも出来る気がしていた。
 せっかく自分に自信を持てるように、なり始めたがもろく崩れていった。
 始めから何でも出来る人なんていない。
 種をまいてから育つまで肥料が必要なように、失敗という経験が肥料となり、流した涙は苗を潤してくれる。
 そうして、咲いた花は君をきっと笑顔にしてくれる。

 それに夏実が気づくのは、もっと後だが。