Last Kitten Heart friends

 ぬいぐるみを抱えた、幼い少女がいた。
 まわりの人たちはコワイ人ばかり。
 わずかにいた優しい人たち。
 泣いているが聞き分けがよく、この人たちに守ってもらっていた。

 古いマンションといっても、数ヶ所入居している。
 三十階建ての五階と低層階にある部屋を目指す。
 この部屋の表札には“三つ葉会”と書いてある。
 なのかは、この部屋の玄関ドアを三回ノックする。
 空っぽの一斗缶をたたいたような音を立てる。
 ドアの向こうから、足音が奥から聞こえてくる。
 そして、三回ノックをたたき返してきた。
 なのかは六回ドアをたたく。
 今度は二回たたき返してきたので、一回だけドアをたたいた。
 するとドアが開き、中から男が出てきた。
「王女さん、待っていましたよ」
 なのかを中に入れると、すぐにドアを閉めた。
「つけられていない?」
「兵士さん、大丈夫です」
 なのかが『兵士さん』と呼ぶこの男、三十代前半で短髪のやせ形。
 呼び名の兵士には服装も含めて、そうは見えない。

 やや散らかったリビングで、なのかが南地区で買ってきたお茶を飲みながら話に入る。
「危険を承知の上、呼び出しですまなかった。まず、重要な報告がある。電報と流れているニュースで察しているが、王様さんを救出に成功した」
 重要な連絡がある時は、電報を打つことになっている。
 電報の内容は冠婚葬祭などだが、意味を持っているのはその電報が何の電報か。
 出産・結婚など吉報、急病とかなら凶報といった具合である。
 文章内容自体には意味はない。
 なのかがその電報を手にしたとき、胸の高鳴りがしていた。
「電報を打ったのは一週間前だ。昨日、王様さんは中央地区を離れた。お前の好きな達人さんと一緒に」
「ち……違う。そんなんじゃない……」
 必死に否定していたが、ほほは赤かった。
 『達人さん』は二十代前半の男で、なのかをボイラー室から救出してくれたその人だ。
 兵士さんは外で待機し、郊外まで連れ出してくれた。
 そのあと、中央地区までは二人とも、ついてきてくれた。
 なのかが南地区を潜伏先に選んだので、住むアパートなど身の回りの手配は兵士さんがやり、南地区の駅まで送り届けたのは達人さん。
 それまでの間、達人さんはなのかの話に乗ってくれて楽しかった。
「そこで呼び出した本題に入ろうか。そろそろ三つ葉会メンバーとして動いてもらおうと思う」
 少し黙り、「どうしても?」不安そうに聞く。
「絶対だ」
「助けてもらったこととか、すごく感謝している。でもね……危ないじゃない」
「みんな、覚悟の上だ」
「でも、私たちがする意味あるの? 東地区って今は平和じゃない」
「表向きは……な」
 なのかの言い返す声は小さくなっていった。
 それを気遣って、なのかの目線より下になるようにしゃがんで話す。
「だれだって怖いさ。オレだって、達人さんもおそらく。でも、やらなくてはいけないんだ。まだまだ救わなければならない人たちのために」
 なのかはボイラー室の人たちを思い出して、涙があふれてきた。
「それに、今の東地区に帰りたくはないだろ」
 ハンドタオルで目元を抑えながらうなずく。
 なのかを抱きしめ、幼い子をあやすかのように頭をなでる。
 まだ幼かったころ、兵士さんにこうして甘えていたことを思い出す。
 苦しいときはそばにいてくれて、思いっきり泣けた。
「いい子だ。最初だからやってもらうのは簡単なものにした。物資調達ルートの確保。達人さんがやっている任務の補助だ」
 南地区に送ってくれた車中で、達人さんが言っていた。
「あいつは厳しいところもあるけど、みんなのことを考えて作戦を練っている。だから、メンバーから信頼されている」
 兵士さんのことを信頼して従おう。だってそれに……。