Last Kitten Heart friends

 なのかが、南地区に戻ってくる前日。
 留恵と陽介は、西地区行きの列車に乗っていた。
 あれから一ヶ月、ずっと留恵には笑顔がない。
 夏実は食事の際、顔を見せるが口は聞いてくれず、畑仕事もまともに手伝ってくれない。
 由樹が不安視していたものが現実となり、由樹と夏実を残して、家を後にした。
 留恵は後ろから流れる景色を、ため息混じりに見つめる。
 ふと、重苦しい声で話しかけてきた。
「陽ちゃんさ……。なのかのこと、どう思う……?」
「暗い感じはするけど、清純でかわいらしくて好印象だと思うけど」
「私は、あんたの女の子の好みを、聞いているんじゃないの!!」
 いつもの留恵ぽい元気さを見れて、ちょっと安心をした。
「じゃあ……。なに?」
 また、軽くため息をつく。
「私ね……。どうも人が信じられなくて。……みんなのことは、もちろん信じているよ。でも……」
 言葉を詰まらせ、一度だけ視線を向かいに座る陽介から外に向ける。
「そう見えなくても、本心は悪い人だって考えたくなる。それは、なのかも例外なく」
 そういえば、『東地区からの脱獄者だったらどうするの』って言われたことを、夏実が愚痴っていたな。
「だから……。それって、変かな……」
 戸惑いの表情で、陽介の目を見る。
「昔の……。あの時のことが原因?」
「うん。だって……。だって、あんな仕打ちを受ければ、そうなるでしょ!!」
 留恵の両こぶしは、強く握りしめられていた。
「私は夏実ちゃんみたいに、振る舞えない!!」
 それは、心の底から出た叫びにも見えた。
「だって……あの時、夏実ちゃんは小さかったから、覚えていないし……」
 感情的になっている留恵とは、対照的に冷静だった。
 その留恵が、落ち着くのを待ってから話しかけた。
「覚えていない方が、幸せだよ」
 ため息と一緒にうなずく。
「私……、たまに思うんだ。夏実ちゃんを引き取って、正解だったのかなって」
 さっきとは違って、落ち着いていた。
「もし、そうじゃなかったら今ごろは……」
「そうだよね……。陽ちゃんは、私についてきてよかった?」
「そうに決まっているじゃない。どうしたの、そんなこと急に言い出すなんて」
 束の間の無言から、ひと息吐いた。
「昨日、由樹ちゃんには同じことを話したんだけど、“本部”に呼び出されたんだ……」
「何て?」
「用件は言っていないけど、察しはついている」
 ため息ばかりつく留恵の理由が、分かってきた気がした。
「ごめんね……。ずっと私のワガママにみんなを巻き込んで……」
 その留恵のひとみは潤んでいた。
「いいって。逆にあの時、誘ってくれてうれしかったよ」
 すると陽介に抱きつくなり、声を上げて泣き始めた。
「……ありがとう。そう言ってくれて……」
 留恵とはもう長いこと一緒にいるが、こんなに気弱な留恵は初めて見た。
 いつも最年長の留恵に、頼ってばかりでどうしていいか分からなかった。
 そっと泣きやむのを待った。
 何気なく窓の方を見ると、景色は留恵の心境のように様変わりしていく。
 ちょうど、この辺だっただろうか。
 強気の留恵が、僕ら三人を連れて引き返すと言い出したのは。