Last Kitten Heart friends

 初めてきた東地区を見渡す。いろいろウワサには聞いていたが、その通りだった。見上げた空でさえ他地区と異色を放つ。近未来的っていうべきか。
 連れてこられたのは事務室と言われた一部屋。男が黙々と作業していた。
「こないだ話した彼だ」
「チース! ヂュリーって言います。よろしくっす」
「このチャラいヤツですか……」人差し指を額に当て、いかにも悩んでいるポーズ。
「彼が秘書のジャック君だ」
 紹介された男は、嫌々握手を求めてきた。「よろしく」
「こちらこそ」
 ため息までつかれたにしては、がっちり交わしてきた。
「当面は、なのかの教育係でもしてもらおうと思う」
「自分はこいつの教育をしたいですがね」
「大丈夫。いつかは大きな活躍をしてくれるさ」

 ジャック先輩に案内されたのは、女の子が一人遊んでいる部屋だった。
「この子が例の子」
「チース! なのかちゃん」
 横でジャックの目から、光線めいたものが飛んできた。
「こんにちは。なのかさん」訂正した。
「こんにちは」
 彼女は人見知りかこわばった表情の中、笑顔を見せる。作り笑いなんだろうな。
 ここでジャックの方に近寄るかと思いきや、自分の方に寄ってきた。順応性はあるみたいだ。
「しかし、先輩ってウケますね」
「なにがだ」キレ気味だ。
「三つ葉(会)のジャックって、トランプじゃないっすか」
「ねー。そうでしょ」
 なのかが同調したため、ジャックは返す言葉がなかった。
「だったら私……クイーンがいいな」
「じゃあ、自分キングで」
 また光線が飛ぶ。
「でも、あなたってエースって感じ」
「ありがとうっす」
 今度は警戒心もなく、純粋に笑ってくれた。よかった。

 気がつくと事務所のイスで寝ていた。夢か……。
 しかし、あのころはお嬢もよく笑ってくれていた。
 乗っ取って一週間が過ぎ去った。
 隠れ家には戻らずビルに住み着いたおかげで、だいぶ彼らと打ち解けた。
 このミッションは、手なずけることが大事なんだ。資産と人材、二つ手に入る。
 腰を押さえながら事務イスから立ち上がり、真夜中のビルで飲み物を物色しに行く。
 自分もソファーの上で寝ればよかったと後悔を連れて行く。ほとんどの子は家がなくビルに住み込んでいる。女子は布団やらベッドで身を寄せ合いながら寝ているが、男子は段ボールを敷いて雑魚寝。建物内でなく公園で寝ていたらホームレスだ。実際、家なき子だが。
 なのかと一緒に入ったカフェのマスターが言ったとおり、未成年ばかりで構成されている。

「その理由って……」
「職員による虐待だよ。逃げ出す子もいたくらいだったから、相当のものだったのだろう」
 なのかは、言葉が出なかった。
「その放火事件で職員全員死亡。行方不明ということで、入っていた子どもの名前は新聞に載った。その中に主犯が混じっていることが分かった。追われる形で作ったのが西のギャング団『バンダ』。あとの子は一緒になっているか、各地に散らばったが組織とはつながっているみたいだ」
 なのかも似た運命をたどってきただけに、感じるものがあったのか別れ際様子がおかしかった。

 冷蔵庫に缶ジュースがあったことも思い出す。
 飲み干した空き缶をゴミ箱に投げ捨てて、今度はソファーの上に寝ることにした。
 薄暗い中、寝顔を何人かのぞき込んで見たが、そんな過去を持つようには見えないかわいい表情。
 平和ってなんだろう、と考えてしまった。分からないから寝ることにした。

「メシ、行こうぜ」と、女子のみを誘ったが男も何人かついてきた。ハンバーグの横に添えられたポテトかニンジンだと思って気にしなかった。全部面倒を見てやるよ。なんせ『アニキ』呼ばわりだし。
 昼食を済ませて談笑をしていると、ヂュリーのモバイルフォンが鳴る。
『元気にやっているか』久々に聞く“王様さん”の声。
「ういっす」一応、席を外して彼らから遠ざかる。
『そっちにヤツらが向かっている。調査目的だから五〜六人くらいの一部隊だけだから善処してくれ。これ以上の欠員は不可能だから、お前は無傷で帰ってこい』
「は? 無理に決まっているじゃないすか。相手分かってますか?」キレ始めて文句ばかり並べる。
『本気だしていいよ』
「……いいんですね」“王様さん”の一言で態度を変えた。
『ただし、人も情報も全て逃がさないという条件ならいいだろう』
「大丈夫っすよ」
『こっちにきている情報だと、明朝に川沿いから上がってくる話だ』
 中央地区と南地区の間を流れている川がある。それのことだ。あの事件以来、中央地区はもとより南地区も通りづらいし。

 早朝、西地区最東端の荒れ地に立っていた。栄養も十分補給したし、迎え撃つ準備はできた。
 平和ってなんだろう。あいつらを止めなければ始まらない。