Last Kitten Heart friends

 ナナたちとフロシエ城の地下室で、ひっそり暮らすようになって一年が過ぎた。
 当初は食料を分けてもらい、ほとんど城内で日々を送っていた。
 ここ最近は、あの事件も忘れられて外に出やすくなってきた。元・児童福祉施設周辺も徐々に平穏を取り戻していた。
 公園を出入りするのは日中なら簡単な話だ。他の来園者に紛れていけばよいのだ。夜間は例のルートで外に出る。そして、食料調達へ街に出かけていった。お金なんて持ち合わせていないので、非合法な手段を続けていた。
 でも、いつかは自立しなくてはと、植木鉢を公園内や城の一室など、こっそり置いて野菜を作っていた。本来少しでも売ってお金にしたいところだが、農業が盛んな南地区はこの辺が厳しくて政府管理下の法人団体に加盟していないと売れない。そもそも、地区内で作ったものは一度この団体に集められるので、他に売るのは許可を取らない限り違法。持ち出すのも当然不可。法人団体に売るか、自分たちで食べるか二つしかない。
 いつものように早朝、誰もいない公園を四人で散歩していた。目覚ましと健康管理を兼ねた運動として。
「ねえ、あれ何?」
 夏実が草むらを指さした。何かの生き物ぽく見えたのだが、ここにいる動物は全て小型のもの。それにしては大きすぎる。
 恐る恐る近づいてみると、同じくらいの年代の子が傷だらけで倒れていた。背格好から女の子だろう。まだ息もある。
「大丈夫?」
 そう夏実は優しく声をかけるが、その辺で拾った枝で突いて安否確認をする。どうやら意識は薄らあるみたいで反応があった。
「よかった……。気がついた」
「大丈夫そう? 水、持ってこようか」
 留恵がそう言って立ち上がろうとすると、腕をつかまれた。
「留恵でしょ? そうだよね?」
「え?!」

 留恵を知るこの女の子。元・施設脱出組だった。とりあえず、地下の隠れ部屋に案内した。
「でも、その傷どうしたの?」
「仲間にやられた……。離脱した留恵たちが正解だったよ。西地区に着いてからは確実に力を伸ばして、一大勢力にまで成っていた。でも、粗暴なやり方が納得できなくて、無理に抜け出そうとしたらこの有様……」
 服をめくってみせると顔だけでなく、全身にわたってアザや生傷が至る所に付いていた。
「留恵だって分かっているでしょ! 戻りたくはないの……。お願いだから、かくまって」
 留恵は即答して迎え入れることにした。快くというより断る理由がなかったからだろう。
 レミと名乗る彼女は同じAグループに属していたが、そこまでの接点がなく、溶け込めるか留恵は不安がっていた。しかし、夏実の面倒を見てくれたりと何かと積極的に動いてくれて徐々に安心へと変わっていった。

 レミが来てから二十日目の深夜。何かの物音に目を覚まして起きてみると地下室は武装した集団に囲まれていた。
「久々だな……」
 一年前、別れたやつらだった。リーダはあの時と変わらず脱出を指揮した人間。そのリーダーの後ろに控える人物もほぼ同一メンバーだった。
「な、なにをしに来たのよ」
 留恵も寝起きで、かなり混乱していた。しかし、本能で動いたのだろう。とっさの判断で、夏実を近くに引き寄せた。
「裏切り者への処罰さ……」
「う、裏切ったって、抜けただけで居場所や逃走経路を通報していないし、なにもあなたたちにしていない」
「一人で抜けたら見逃してもやれたが、三人も引き抜いて裏切ってないと? 貴重戦力の夏実も抜いたし……」
 留恵は返す言葉がなかった。
「お前たちに残された選択肢は二つ。一つはここの公園の肥料になる」
 そう言うと武装メンバーが武器を手にした。
「もう一つは、最近南地区で新しくビジネスを始めることにした。いろいろ準備は整ったが人手が足りないだな……。簡単な話だ。こっちの指示通りに動けば、今よりはるかにいい生活ができる」
 眠そうな由樹を引っ張って留恵のもとに一同集合した。その時、初めて気づいた。レミがいないことに。
 全て始めから仕組まれていた。ここにいることを嗅ぎつけ、レミを送り込む。襲撃をかけるためのルートと、適切な時間を見つけるための生活行動パターンの把握。その情報を送り、油断した頃に踏み込む——。なぜ、夏実をあいつらが欲しがっていたのかは、こうやってだまし抜くための人員が欲しかったのだろう。
「もう、誰も信用しない」
 すごい悔しそうにしていた留恵をよく覚えていた。

 そのまま早朝、公園を出てバスに乗せられた。こちらは四人に対し、向こうはリーダーと八人の武装メンバーがつけていた。一人も逃げることを許されない状況。
 着いたのは南地区の外れ。見渡す限りの農地か森の、自然豊か過ぎる場所。
「あの家を中心とした一帯の農地をオレたちの交渉によって、譲ってもらうことになった」
 どうせ『武力交渉』だろう。
「条件は二つ。作った作物は一定量を本部に流すこと! 二つ目はこっちの定期検査を断らないこと!」
 確かに悪くはなかった。ひっそり公園で暮らすより、人の少ないここで普通の生活を送る方がまだいいだろう。どうせ逃げられないんだ、小さな鳥カゴが動物園並みに広くなったと思うしかない。
「ナナも来ることなかったのに……」
「興味があったんでね」
「猫は気楽でいいな……」

 制約はあったが、ごくありふれた生活ができた。この平穏な生活は四年間続いた。そう、別人ではあるが同じように現れ、僕たちに入り込もうとする少女が来るまで。

 夏実が叫んだリビングは静まりかえっていた。そこでこの五年間を思い出していた。

もう一つ、この家に来てから重大な出来事があった。
 ——キャパだ。