Last Kitten Heart friends

 もらった家は家具などはなく、床がホコリまみれだった。しかし、建ててからそう古くはなく、新築に近かった。そして、なにより農作物を作るための種や道具は揃えられていた。それと収穫できるまでの生活費を少しばかりもらうことができた。
 四人で協力して畑を耕し、育て方もなんとか調べ上げ、初収穫できたときはみんなで喜び合った。
 裏取引していることを周囲にバレないように、一部は正規南地区のルートで渡し、大部分はバンダに流した。
 両方から得た資金と少しだけ残した作物で生活をしていた。最初のころは力仕事があるにも関わらず、食事も満足にとれないほど貧しかった。
 しかし、少しずつお金も貯まった結果、食事の質もよくなり、家具や身なりも向上することができた。『絶対服従』の条件を除けば、文句一つない良い暮らしになるまで二年を要した。だいたいその頃だった。

 もらったこの土地は住み家を中心に畑が広がっており、隣の家がかなり遠くに見えていた。このお隣さん、アパートを経営している。こんな郊外に誰が住むんだろうと思っていたが、かなりの激安物件で昼間中心部で働いていた人が静かな寝床を求めて入っているらしい。
 そして、このお隣さんとは仲がよろしくない。このあたりの地主さんがいて、バンダにこのあたりの土地を譲ることになってしまった。それを知ってか、本部ではなく末端の僕らを責め立てるようになった。
 最初はお隣さんから石を投げつけられたこともあったが、後ろ盾の力を借りると、すっかり収まってしまったが、いまだにくすぶっている。
 ちなみに、留恵は地主さんを見たことがあると言っていた。南地区の別の所に住むことになってしまったおじいさんらしい。

「釘がまた落ちている」
「また、いつもの嫌がらせでしょ」
 畑のそこら中にちりばめられた、長さも一様の釘を拾い集める。何も手で拾うこともなく、毎回磁石でかき集め、再利用している。おかげで柵を立てるとき、釘だけは買ったことがない。
「ねえ、なんか森が騒がしくない?」
 夏実が指を指す森は、いつも平穏なのにやたら鳥の鳴き声が絶えなかった。
 なんとなく知り得た情報で、この森が危険なことくらいは理解していた。だが、それはよくある言い伝えか何かで、子供を入れさせないやつだろうと思っていた。このあたりにも同世代の子たちはいる。当然、口なんて聞いてくれるどころか、近寄ってさえしてこない。
 確かに興味はあった。この森になにがあるのか。

 人が踏み入れない森とあって、草木は思い通りに育っており、高い木々が森の中を薄暗くしていた。
「ねえ……。気味が悪すぎるよ……。やめようよ」
 由樹が情けない声を発した。
「こっちに獣道がある。行ってみよう」
 言った留恵とその後をついて行く夏実は平気そうだった。
「出られなくなったら、どうするの!」
「その時はその時で考える」
 それじゃ、遅いよ。

 戦車のごとく進む留恵に続けて、夏実、自分、由樹とついて回った。森の奥へは一層茂みが深くなり、日没も迫り始めて暗さが増してきた。
 鳥の鳴き声が大きい方へ草木をかけ分けていくと、得体の知れない生き物が横たわっていた。バスケットボールくらいの大きさで、形も丸い、短い赤毛で覆われており手足も短い。
「噛みついたり、しないかな」
「じゃあ、由樹ちゃん。試してみて」
「冷静な顔で、凶暴なことを言うの!」
「気絶しているし、問題ないかなって……」
「あるだろう。普通に」
 夏実が何かに気づいて、声を上げる。
「ねえ! これ、ケガしているんじゃないの」
 この生き物の右足には鉄製のワナがかけられていた。誰がか仕掛けたものに引っかかってしまったのだろう。夏実はすぐさま外すことを試みてみたが、重くて外すことができなかった。
「夏実ちゃん、危ないからやってあげるよ」
「しょうがない。家につれて手当しよう」
 年長者二人によって助けられた生き物。治療してあげてリビングのソファーの上に寝かせておいた。
「こんな生き物がいたなんて……」
 分厚い図鑑にすら載っていないこの生き物の扱いに皆困り果てていた。
「どうするの……? 飼うの?」
「まさか。ウチにそんな余力はないよ。それに何を食べるの? 私たちじゃないでしょうね……」
『じゃあ、由樹ちゃん。試してみて』と言われる前に名案を思いついた。
「寝ているうちに帰せば、いいんじゃないの?」
「それだ!」——と同時に赤毛の生き物は目覚めてしまった。
 一斉に慌てふためいたが、向こうも同じく部屋の隅っこに逃げた。
「冷静になろうよ。私たちは四人、向こうは一匹。しかも子供とみた。勝てるかもしれない」
「こっちも子供ばっかりだけどね」
 すると夏実があの生き物に近づいていった。
「怖くないから、おいで」
 夏実の思いが通じたのか、恐る恐る歩み寄ってきた。
「大丈夫だよ」
 そして、にこっと笑う夏実に飛び込んでいった。それは僕らがとキャパとの友好が始まった瞬間でもあった。

 傷が治るまで。それまで家に置いておいた。その間いろいろと教えてもらった。
 キャパには特殊な能力を持ち、この子は『瞬間移動』ができることを。一度触れた生物だったらなんでも移動できる。このころはたいした距離は移動できなかった。
「北地区にも特殊能力を持つ種族がいるの!?」
 キャパは言葉そのものは理解しているみたいだが、話すことはできない。代わりにテレパシーみたいなもので会話している。
 夏実が一番仲良くなった。そこへ留恵が話しかけてきた。
「でも、そろそろ帰してあげないとね。ケガも治ってきたし」
 するとキャパは何かを言いたそうに騒ぎ立てる。
「『一人で帰る』って……」
「でも、心配だから」
『大人たちが追い返そうとするよ?』
 自分たちの住み家を守るため、この森を荒らされないため。神隠し的なことをしてでもやり遂げている。
 この森は現在は南地区政府下の元にあるが、売り出してもいる。この悪いウワサのおかげで、買い手がつかなくなっている。
「じゃあ、私たちがいつか買い取って守ってあげる。そしたら、大人たちも受け入れてくれるでしょ」
「夏実ちゃん。買い取るって言ったって、いくら必要だと思っているのよ」

 この思いつきで言ったに過ぎない夏実の一言から、鬼ごっこ大会などに出るようになった。