Last Kitten Heart friends

 キャパの森を、有刺鉄線で隙間なく囲われて通り抜けるのは、ナナでも厳しかった。上には三メートルまであり、どうすることも出来なかった。一カ所だけ扉状になっており、そこから入れそうだったが、あいにく鍵がかかっていた。そこには『イーストエンド産業 私有地』と買収したところが、所有権を固持していた。
「これ、いつからだった……?」
「ずっと前からだったかもしれない。夏実ちゃんがああだったし、二人とも家に居なかったから、キャパも家には遊びに来てくれなかったから……」
 由樹と留恵で見に来ていたが、状況はこの有様だった。
「とりあえず、ナナに入ってもらって様子を見てもらう?」
「どうやって中に?」
「適当に切って、そこから入ればいいんじゃないの。電気が通っているわけでもないし」
「そんなことしていいの?」
「黙って見守れっていうの?」
「それもそうか……」
 大声を張る留恵につい納得してしまった。
「もう少し調べよう。敵か味方かまだ分からないし……」
 ただ悪い予感しかしなかった。それは自分だけなのか。

 一度、家に戻ることにした。体制を整える為に作戦があるからだ。
 先日蒔いたアブラナは、少しずつ芽を出し始めてきており、地味だった茶色のキャンバスに鮮やかな緑色が加えられた。これが眩しいくらいの黄色へと変わるまでまだ先のことだった。
 その畑の間を突き抜けていく道路の先は、我が家へと通じる。その玄関先からすでに賑やかな声がこぼれていた。その声を辿るように、廊下を普段通りにリビングに入っていくと、夏実がなのかと楽しそうに話していた。
 夏実は顔を引きつらせ、留恵と目を合わせないように俯いた。夏実たちとは離れたところで陽介と由樹との作戦。さすがに事の発端となったなのかもいれば、夏実も逃げないんじゃないかと考えた。思惑通りに留恵が夏実の横に座っても動じなかった。
「私、お茶を持ってくるね」
 意外にも夏実から話しかけてきて、これはうまく行くんじゃないかと一同確信した。
 夏実がソファーから立ち上がると、何故かキッチンとは遠回りになるような経路を辿っていった。すると、廊下へ出るドア前に来ると機敏にドアを開き、そのまま階段を駆け上がっていった。
「これもダメかー!」
 緊迫した部屋中の空気が、一気に落胆へと変わっていった。
「ごめんなさい! お役に立てなくて」
 なのかはその場に立ち上がり、手を合わせる。
「いいよ。ここまできたら夏実ちゃんの問題だし」
 ほぼうまくいく作戦だっただけに、失敗したことをなのかは自責していたが、一様に慰めた。

 

 

「私、そろそろ帰るね」
 結局、夏実はお茶を入れに戻ってくる様子もないので、なのかは帰り支度を始めた。
「気をつけてね。最近、やたらと車が通るみたいだし」
 留恵が何気なくかけた声に、なのかは振り向いた。
「そういえば、森に有刺鉄線を張ったの……?」
「いや、私たちじゃない。『イーストエンド産業』ってところ」
 その言葉を聞くと、なのかの表情が一瞬変わった。
「知っているの?!」
「聞いたことがあるような、ないような……」
 なかなか細かい情報を集められず、なのかの表情を見てつい留恵が聞いてしまったが、なのかは必死に思い出そうとするだけで目新しい情報は出てこなかった。
「ごめん。別に無理に思い出さなくていいから」
「私こそ、ごめんなさい。何も役に立てなくて」
 苦悶の表情で帰したなのかに対して、何か悪いことをしたように思えてならなかった。

 翌日の明朝、こっそりと有刺鉄線の一部を破壊。農具置き場の片隅で、久しぶりに出番が回ってきたペンチが活躍した。ナナが通れるくらいの穴を開けて中に通すと、見た目判らないくらいに鉄線を元に戻しておいた。
「帰りは、キャパの瞬間移動で戻してもらうよ」
 そう言い残して、森の奥にあるキャパの住み家へ走って行った。
 その間、留恵、陽介、由樹の三人で農作業の合間に作戦会議を始めた。
 夜も引き続きリビングで話していると、隣り合わせのキッチンから金属が落ちる音がした。
「また、ずれている……」
 ナナが瞬間移動で戻ってきたのはいいが、リビングに戻ってくるはずが、重ねて置いた鍋をひっくり返して戻ってきた。
「どうだった?」
 床に散らばった鍋を由樹が拾い上げ、その鍋の中に埋もれたナナを留恵が拾い上げた。
「こっちからだと見えないが、反対側では機材が持ち込まれていて、森の切り崩しが始まっている」
 その事実を知ると、一同の表情は暗かった。
「で、キャパはどうするって?」
「『機材を瞬間移動で遠くに動かす』って、大人たちは言っているって」
「キャパお得意の北地区に飛ばす、いつもの作戦ね。いつやるの?」
「明日の夜みたい」
「そうか……。私たちも何か出来ること考えよう」
 あまりまとまることはなく、この日の会議は終わった。

 

 

 その頃、なのかはクローバーのみんなが作ってくれた資料をチェックしていた。夜も更けてきたので、そろそろ床につこうと片付けていると、一枚の紙を落としてしまった。
 拾い上げて何気なく見ていると、書かれていたキーワードに思い出した。
「イーストエンド産業って、東地区でクーデターを起こした、あいつらだ!」