Last Kitten Heart friends

 南地区がド田舎呼ばわりされると、決まって南地区の人が言い返すセリフがある。
『ド田舎は北地区だろ!』
 なぜなら、なにもないから。あるとしたら……。

 夏実を助けようとしたが、いつの間にか景色は暗闇の森から、真っ白の地面に変わっていた。もうじき朝日が出るが、人がいるのかさえ分からない。
 それとも、ここが噂に聞く、あの世って所なのだろうか……。
「本当にないんだ……」
 しばらく歩いても、遠くに山が見えるだけの白い世界が永遠と続くだけ。
 それにしても、寒い……。
 白い地面にすぐ埋もれて歩きづらい。そして、冷たく足の感覚がなくなっていきそうだった。
 ——もしかして、これのこと?
 小さい頃、ヂュリーから話をよく聞いているので、だいたい知っていた。でも初めて実物の『雪』を見た。
 だったら、この目の前に映る銀世界は、北地区か……。
 南地区郊外に来たときはド田舎だと思ったが、北地区は雪しかないって本当なんだ。
 だったら、夏実が危ない。早く見つけてあげないと、凍死しちゃう……。
 北地区以外では見ることができない雪に、東地区出身の私が慣れるはずがなかった。体の熱を純白の雪が奪い、更にはあざ笑うかのように進行を妨げる。
 日が昇り始めたが、人里がありそうな所は遠くに見える。体が冷えてきて意識も遠のいていく……。
 そこへ雪の中で何か柔らかいものを踏みつけてしまった感覚があり、つまずいて雪の中へ豪快なダイブを見せて転んだ。
 もしかして! と思い、かき分けてみると夏実が出てきた。雪の中にいたせいで体が冷たく、必死で呼びかけたが反応せず意識もない。助けようにも手段がない。
 夏実を背負い、人がいそうな所を目指して再び歩き続けた。夏実は他の四人と比べたら体も小さく多分体重もそこまで重くないはず。しかし、私に夏実を負ぶってあげる力がなく足だけを地面に引きずっていたが、それでも息が上がり体力消耗が一層激しくなってしまった。
 森で一緒にいたはずの子供キャパが見つからない。私が夏実を見つけるまでに要した時間を考えたら、相当広範囲に散らばっていたのだろう。夏実を見つけられたのは、きっと奇跡なのかもしれない。
 夏実を負ぶって歩き続けると、日も上がり全体がはっきり見えてきた。それは絶望もはっきり確認することになった。山々に囲まれており民家すら見えなく、噂通り『なにもない』所だった。本当に北地区は人が住んでいるのだろうか……。
 いったい、どこを目指していいものか、分からなくってきた。滴り落ちる汗で前が見えづらく、夏実を負ぶっているので、拭うことも苦になってしまう。
 体力が尽きてくるのが、胸の鼓動と息の荒さで分かっていた。それでも道なき道を進んでいた。それしか頭になかった。覚えていたのは、この辺りまでだったかもしれない。

「お嬢。気がついたっすか?」
 ぼんやりとした意識の中で、聞き覚えのある声にしゃべり方。小さい頃から聞いているからすぐに分かった。
「……ヂュリーなの?」
「そうっす、もう大丈夫っす。一緒にいた女の子も助けてあります」
 夏実のことだろう。それを聞いて安心したのか、自然と目蓋が重くなってきた。

 たまたま通りかかったヂュリーに助けてもらい、近かった実家に連れてきたらしい。家の中とあって暖かい。本当に北地区は人が住んでいることを室温で実感した。
 温かいスープを飲みながら、全てのいきさつを話した。
「そんなことがあったんすか……」
「だから! 絶対に、夏実ちゃんに私たちの正体を言わないで! これは命令」
「大丈夫っす! クローバーとして、それで今までずっとやってきたじゃないっすか」
 『クローバー』っていう単語自体アウトなんだよ……。ヂュリーの言葉に不安が拭い去れなかった。
 体が温まったお陰か、多少は動き回れるようになった。そんなに大したことがなくって良かった。
 隣の部屋に夏実が寝ていると聞いて、スープと共に起こさないようにゆっくり薄暗い部屋の中に入った。夏実は雪に埋もれていた時間が長かったので、寝顔もどことなく顔色が悪い。
 せっかく寝ているところを起こすのはかわいそうだと、そのまま立ち去ろうと思った。
「……だ、誰?」
 まずい、物音で起こしてしまった……。寝ぼけた声で夏実の声がした。
「大丈夫。私……なのかだから」
 それを聞いて起き上がろうとした。
「無理しなくていいよ……」
「ううん。大丈夫だよ」
 あんまり平気には思えない声で答えた。
「お腹すいた? スープがあるよ」
 小さくうなずくのを確認して、ベッド脇のテーブルに置いてあげた。
「おいしい?」
 ヂュリーの母君が作っていただけたスープに、表情も柔らかになってきた。
 夏実も大きな怪我もなさそうで、これで一息つけた。
 しかし、どうやって帰るか……。西地区経由でしか戻る方法はないのだが。
 こんな状況にも関わらず、なにを疑うことなく幸せそうな笑顔を私に見せてくれた。

 夏実の瞳は濁りがなくて、まるで綺麗な宝石のように輝いて見えた。