Last Kitten Heart friends

 よくニュースで賑わしていたみたいだったけど、私はよく詳しく分かっていなかった。
 でも、東地区の『クローバー』は世界を陥れる危険な組織だって。元々あった『三つ葉会』の残党で作ったもので、特にその中でもクイーンは最重要人物とされている。現・東地区政府が必死に探し回っているそのクイーンが、目の前にいたなんて……。
「な、なのかちゃんって……。その……。く、クローバーなの……?」
 半信半疑だった。クイーンって、もっと凶悪な顔をした大人の女性だと思っていた。それが私より年上だが、子供っぽさも残るのんびりしてそうな子だった。
 怖かった。でも、時に見せる笑顔で『違うに決まっているじゃない』って言って欲しかった。
 しかし、あまりにも引きつった顔で一点だけを見つめていた。
「ねぇ……?」
 なかなか答えてくれてなく、つい急かすようなことを発してしまった。
「ち、違うに……。そう、決まっているじゃない……」
 明らかな挙動不審な答えに、不安しか積み上げられない。
 でも、クローバーといったら東地区だけでなく、全地区を滅亡させようとする集団組織。その首謀者である『クイーン』が『なのか』だったとしても、そんなことを企てるような人間には到底見えない。やっぱり、違うのかな……。
「そう……だよね! なのかちゃんが、クローバーのクイーンじゃないよね」
「そうだよ、だから安心して」
 そう言ったなのかの笑顔がわざとらしく見えて怖かった。いや、自分がなのかを信じていないだけかも知れない。
 いつの間にか、料理を持ってきたおばさんがいなくなり、なのかと二人っきりになった。なにもおかしな所なんて無いはずなのに、黙り込んでしまった。
 しばらく、口から言葉は発することはなく、出された料理を黙々と口に入れていった。北地区原住民の家庭料理とも呼べる肉尽くしの数々。サラダが申し訳なさそうに端に置かれ、スープはあるが具材は北地区の料理そのものだった。私にはちょっと重く感じる品々ばかりだった。
 ナイフとフォークが奏でる音だけが、部屋中を響き渡っていた。
「でも、よく助かったよね」
 意図はなかったが、ちょっと安心しきって、なんとなく言葉が出た。
「そうだね」
 笑顔を見せるが、とっさに取り繕ったように見えた。
 大きい鳥の丸焼きで、対面側に座るなのかの手元が見えない。その鳥肉も少しずつ原型が崩れたが、会話も長くは続かなかった。
「でも、親切な人で良かったね」
「そうだね……」
 どこか遠くの方へ意識が飛んでいるような、返しだった。
「……クローバーの人なの?」
 鳥肉の向こう側で、なにか激しい衝撃音がした。それは、ナイフとフォークを食器の上に落としたような音だった。
「それはね……。その……」
 次に聞こえてきたのは、明らかに動揺した細々とした声だった。
 思わずその場から立ち去ろうとイスを押し倒し、部屋の外へ駆け込んだ。廊下に出ると荷物が無造作に置かれて、狭くなっている。ただ、外に出られる玄関だけを目指した。
 家の外に出ると、当然ながら白い世界が広がっていた。無計画に外に出てしまったので、服装も合わず、刺すような寒さが襲い続けてきた。
 吹雪の中、進むにしても当てはなく、戻ることもできない。そこへ毛布を持って駆け寄ってきたなのかが来た。
 必死で逃げようとしたが、追いつかれてしまった。
「夏実ちゃん! 危ないから戻ってきて!」
 必死な様子でそばまで来ると、毛布を掛けようと歩み寄ってきた。
「近寄らないでよ! 世界を陥れようとしているんでしょ!」
 掴んだなのかの手を振りほどき、距離を空ける。
「夏実ちゃん、違うの! あれはね、今の東地区政府が——」

 突然、目の前の雪景色が温暖な室内に変わった。そして、ショートヘアのなのかが、ロングヘアの留恵になった。
「……ごめん。なのか……なんだけどね……」
 心配そうに留恵が覗き込む。その傍らにはキャパもいる。きっと瞬間移動で戻したんだろう。
「あのね。なのか……」
 ふと、脳裏に駆け回るようによぎった。ずっと前に留恵が『なのかがクローバーだったらどうするの?』って激しい剣幕で言われたことを。
 絶対に怒られると思って怖くて言い出せなく、言葉がそれ以上出てこなかった。代わりに涙が溢れて止まらなかった。
 留恵がそっと手を差し出したが、恐怖のあまり思わず振りほどいた。どうしていいか分からず、一目散に自分の部屋に駆け込んだ。
 布団の中に潜り込むと、声が聞かれないように口を枕で押さえて大泣きした。
「ずっと嘘をつかれていたなんて……」
 私は信じてあげなければならない、大切な人に気づかずにいた。その結果、家族同然だったのに、傷つけた。
 周りが救いの手を差し延べたのは分かっていた。でも、素直になれなくて、その手を振り払った。
 結局、一番傷つけたのは自分だった。それが全て返ってきたんだ。

 人は傷つけ合わなければ、生きられないのだろうか。