Short×Short cake vol.4

006:ツンチョコデレーション

 空から女の子が降ってきた。正確には、こういう成り行きだ。

 高校から最寄り駅まで行き来も慣れた二年目。いつものように改札口を通り抜け、ぼんやりとホームへの階段を下りていく。
 時間を確認……もうじき電車がくる。毎度のことだ、何時に学校を出ればいいかわかりきっていた。
 車輪が線路の継ぎ目を通過する音が、大きくなり始める。
 階段を降りきると、後ろでも別の音がしてきた。振り返ると、慌てて女の子が駆け降りてきた。制服からして同じ高校の子が途中の階段を踏み外し、僕のところへ跳び蹴りにも似た格好で飛び込んできた。
 見てしまったのだ、天使が舞い降りるところを。
 彼女が痛がるリアクションを見せるが、クッション代わりに下敷きにされたこっちだって背中を中心に痛い。
 すると、彼女は僕の方をにらみつけた。
「あんた。私のスカートの中、見たでしょ?」
「見てません」白い天使を見たなんて言えません。
「ウソ! 絶対ウソだ」
「無実です! 潔白ですって」そして、あなたは純白。
「信じられない」
 この逃げようのない状況を、どう脱するか。そこへ助け船となる発車ベルが鳴り響く。
「ほら、乗り遅れるよ」彼女は僕の手を引いて、車中に乗り込む。

 学年は同じだが、クラスも部活も違うので毎日とはいかなかった。
 けど、時間さえ合えばあれ以来一緒に帰るようになった。
 今度は、キューピットが味方してくれたのかな。
 あの時乗った助け船は、ドロ船だったが。
「ねえ? 通知表、どうだった?」
「まあまあかな。一学期とあまり変わらない」
「私はちょっとだけ上がったんだ」
 ちょっとうれしそうな表情を浮かべる。バックに映るクリスマスイルミネーションに重なって輝いて見えた。
「今年もクリスマスは部活……」「自分もだよ」
 おかげで、今日は一緒に帰れているわけだ。
「来年は、一緒に過ごしたいね」「なに言っているの。来年受験だよ」
 一緒に受験勉強をするのもアリだが。
「じゃあ、再来年」
「『じゃあ』って……。でも、約束だよ」人差し指をこっちに向けて言う。
「絶対、守るよ」
 その時の情景はずっと忘れられないほど、セピア色にしたくない出来事になった。

 しかし、その約束を揺るがす一言を、一月下旬に彼女の方から出る。
「バレンタインデーって、チョコレート会社の陰謀だよね」
 確かにきっかけを作ったのは、そうなんだが。
 気になって腹の中を探ってみたら、とんでもない爆弾を掘り起こしてしまった。
「その陰謀には乗っかっていただけないんですか」
 この雰囲気から察するに、くれる方向性を見いだせない。
 今年は……と、ちょっと期待。いや、チョコっと期待したことがむなしい。
 きっと、これも陰謀なんだ。冬に寒いダジャレを言わせることも。
 その陰謀に乗っかってしまった哀れな自分がいた。
 二月十四日当日、げた箱、ロッカー、机の引き出しを隅まで探したが宝箱を発見できる甘い話ではなかった。カカオ百パーセントのビターな感じだ。
 こうして大半の男は何かの企てにより、二月十四日という黒い日を終える。
 そして、一部の人間だけが甘いミルクチョコを手にする、白黒はっきりする日。
 なんて残酷な日なんだ。やっぱり、『陰謀』なんだろう。
 学校帰りが最後のチャンスだったが、時間が合わず収穫無しで終わった。

 自宅に戻り、ノートをリュックから出そうとすると、かわいらしい箱が出てきた。
 メッセージカードと、あと一つ。「チョコレート会社、ありがとう!」
 あんなことを言っていたのに、いつの間にか入れていったらしい。
 メッセージカードでも、だれからか分かった。
『あんたのためにあげるんじゃないからね』と、殴り書きにも似た字で書かれていた。
 でも、ツンデレな彼女とはもう少し関係が続きそうだ。